映画【SAYURI】感想(ネタバレ):美しい映像で描かれる異国情緒と一人の芸者の成長譚

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●こんなお話

 ある娘さんの一代記の話。

●感想

 異文化を描くことの難しさに真っ向から取り組んだ作品で、アメリカのハリウッド映画らしく映像はどこまでも美しく、美術や衣装も豪華で目を引くものでした。装飾や色使い、ライティングなどにも細やかなこだわりが見えて、安っぽさを感じるような部分はなく、さすが世界中に配給される映画だと感じさせられる画作りだったと思います。異国の文化を描きながら、しっかりと観客の視覚を楽しませるという点では非常に優れた映画だったと感じました。

 しかしながら、日本人としてこの映画を観ると、どうしてもいくつか気になる描写がありました。ストーリーの背景にある日本文化の描写が、細部で妙な違和感を残してしまうことで、物語の中に入り込むのが難しい時間が続いてしまったように思います。全体としての構図や人物の配置、風俗の描写が海外から見た“ジャパン”という印象に引っ張られているようで、観ている途中で少し距離を感じてしまいました。

 物語としては、幼い頃に家族と別れた少女が売られて京都にやってきて、芸者の道へ進むというもの。厳しい先輩や優しい先輩に囲まれながら、時に傷つき、時に励まされて成長し、ついには人気芸者へと成り上がっていきます。子どもの頃にかき氷をごちそうしてくれた紳士に恋心を抱き続け、彼にもう一度会いたいという一心で努力を重ねる主人公の姿は一途で健気なのですが、個人的にはその物語に大きく心が動かされるような感覚までは得られませんでした。

 物語の中心には、会長様と呼ばれる人物との関係が据えられていて、主人公は彼との再会を目指して芸者としての修行を積んでいきます。その中で大勢の前で踊りを披露したり、日本の芸者文化である「水揚げ」という風習に身を投じたりしながら、彼女なりの成長を重ねていくのですが、その変化があまり大きな感動に結びついてこないのが少し残念でもありました。

 さらに、主人公を想うもう一人の男性・ノブさんが登場し、三角関係のような関係性も描かれます。会長様とノブさん、そしてサユリの三人の距離感や感情の揺れ動きが描かれてはいるのですが、会長様の気持ちが最後まで分かりにくく、恋愛劇としての切なさや喜びといった感情が強く浮かび上がってこなかった印象です。ただ、サユリに一途な思いを向けるノブさんの姿はとても愛おしく、彼の存在が映画の中で一番印象に残ったかもしれません。

 終盤、サユリが一人、山脈の頂上のような場所で物思いにふけるシーンがあるのですが、その情景は確かに美しいものの、思わず「どうやってあんな所まで行ったんだろう」と現実的なことを考えてしまい、そこで一度映画の世界から現実に引き戻されてしまいました。映像美とドラマのテンポの間に少しズレを感じてしまった瞬間です。

 上映時間は140分。映像美をゆっくり味わうことができる長さとも言えますが、ストーリーの密度を考えるとやや長めに感じられる場面もありました。それでも、衣装、セット、照明、演出といった映像全体に流れる高い完成度は見応えがあり、映像体験としては豊かな時間を過ごせた作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日: 2016/09/25 DVD

監督ロブ・マーシャル 
脚本ロビン・スウィコード 
ダグ・ライト 
原作アーサー・ゴールデン 
出演チャン・ツィイー 
渡辺謙 
ミシェル・ヨー 
役所広司 
桃井かおり 
工藤夕貴 
コン・リー 
大後寿々花 

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