●こんなお話
バーのママと墓堀りの青年の逃避行の話。
●感想
物語の進み方がとにかく常識を飛び越えた勢いで突き進んでいき、終始目が離せないという意味で非常に刺激的な一本でした。最初の出会いからしてかなり破天荒で、梶芽衣子さんと渡瀬恒彦さんの2人がなぜ一緒に行動しているのかという部分には、明確な理由や背景もなく、それゆえにどこか突拍子のなさすら愛おしく感じられるような感覚がありました。
2人の出会いが交通事故というのもすでに驚きの導入ですが、そこからの流れがまた圧巻で、タバコに火をつけたら車から漏れたガソリンに引火して、そのまま大爆発へという一連の展開。常識的な因果関係をすっ飛ばして、とにかく映像と展開で押し切ってくる演出に、思わず笑いがこぼれてしまうような強引さが心地よく感じました。
全体を通して、物語の転がり方がとにかく勢い任せで、しかもその勢いが絶え間なく続いていくというスタイルでした。ヤクザ3人組が主人公を見つける場面は2回あったと思うのですが、どちらも偶然の再会という設定で、もはやご都合主義もここまで徹底すれば独自の世界観として成立してしまうのだと感じさせられました。
主人公が車で逃げようとするもクラッシュしてしまい、なんと指がもげるというスプラッター演出。さらに、走って逃げ込んだ先はコンテナの中で、そのまま閉じ込められ、ドアが開いた瞬間に脱出を試みるも、そこに待っていたのはトラックの運転手。捕まってしまったかと思えば、今度は商店街の人々に囲まれて袋叩きにされるという怒涛の連鎖。しかも、その商店街のおじさんたちがやたらと武道に長けていて、主人公を容赦なく追い詰めていく様子には、ちょっとした現代劇と時代劇の混ざり合いを感じるような不思議な感覚を覚えました。
猟銃を手に入れるくだりもまた非常に印象的で、たまたま猟銃を持っている人と遭遇し、そのまま奪おうとして射殺してしまうという衝撃の展開。主人公が、特に悪意のない人々にまで手をかけてしまう場面が続きますが、その流れもあまりに唐突すぎて、もはや現実味という尺度を超えて、純粋なエネルギーとして受け止めたくなってしまうような勢いを感じました。
警察の描かれ方も独特で、不審人物がいればすぐに発砲してくるという過剰なまでの反応。その容赦のなさが物語全体の過熱具合をさらに加速させていて、非常にスリリングな時間を味わうことができました。
川谷拓三さんの演じるキャラクターが車にひきずられていくアクションシーンも見応えがありました。あの迫力から察するに、おそらくご本人が実際にひきずられているのではないかと思うほどの体当たり演技で、画面越しに思わず「大丈夫ですか…?」と心配になってしまうような生々しさがありました。
そして何より、終盤に突入してからの銃撃戦がとにかく圧巻でした。90分という時間がほぼノンストップのアクションに満ちており、そのテンションの高さには思わず圧倒されました。エンタテインメントとして非常に痛快で、ここまで突き抜けていると、理屈抜きで楽しめてしまう力強さがあります。
加えて、梶芽衣子さんの美しさも際立っていて、彼女がスクリーンに現れるだけで画面の空気が引き締まるように感じました。ハードな展開の中でも、その存在感は揺るぎなく、改めて魅力的な女優さんだと再認識いたしました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2011/12/26 DVD
監督 | 中島貞夫 |
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脚本 | 中島貞夫 |
金子武郎 |
出演 | 梶芽衣子 |
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渡瀬恒彦 | |
加納えり子 | |
内田良平 | |
室田日出男 | |
川谷拓三 |