映画【日輪の遺産】感想(ネタバレ):少女たちと軍人の心の交流が胸を打つ、終戦直前の知られざる物語

nichirin-no-isan
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●こんなお話

 マッカーサーの財宝を隠匿せよ」というトップシークレットの命令を受けた近衛師団の少佐が、たった3人で任務を遂行する話。

●感想

 終戦間際の日本を舞台に、クーデター未遂事件を中心とした史実に、若き少女たちの儚い日常を重ねるという構成で、阿南陸軍大臣の切腹、森師団長の殺害、そしてポツダム宣言受諾をめぐる動きが重層的に描かれていきます。まさに一つの時代の転換点を、内側と外側の視点から見せてくれる骨太な物語となっていました。

 物語の中心には、特別な任務のために軍に協力させられている少女たちと、主人公たち軍人との交流が描かれています。その交流は非常に繊細に描写されており、特に中村獅童さんが演じた軍人のキャラクターは、荒々しさの中に人間味と優しさが込められていて、とても印象的でした。少女の級長と一緒に風呂掃除をする場面では、互いに言葉を交わすことなく、ただ静かにブラシを動かす姿が映し出されるだけなのですが、その沈黙の重さが逆に感情の深さを物語っていて、心に残る美しい場面だったと感じました。金平糖を通じて交わされる心の交流も印象的で、時を越えて再び同じお菓子が登場する構成には少し驚きましたが、象徴的なモチーフとして繰り返されることで、記憶の継承というテーマに一層の奥行きを与えていたように思います。

 ただ、少女たちとの任務が終わった後の展開は、やや構成が分散してしまっている印象もありました。彼女たちとの別れの余韻が残るなかで、物語は再び歴史の大きな流れに戻っていくのですが、そこから終盤にかけてのパートは、時に現代の描写が差し込まれたり、アメリカ側の視点から語られたりと、回想の連なりによってテンポが少し緩やかになっていたかもしれません。マッカーサーの優しさや、戦争終結に至る一連の流れを描こうとする意図は伝わるのですが、それぞれの視点に感情移入する間もなく、流れが変わってしまうのは少しもったいないと感じました。

 特に、終盤の決断の場面では、主人公の仲間が必死に説得する場面があったにもかかわらず、なぜその時に決断できず、後になって思い直したのかという心理の描写にもう少し踏み込んでくれたら、説得力が増していたように思います。結果として、その心の揺れがあまり観客に届かず、突然の変化として映ってしまったのは少し残念でした。

 また、青酸カリによる集団服用の場面についても、何故そのような方法を選んだのか、なぜ洞窟の中で整列して服用したのか、誰がその手配をしたのかといった背景がやや不明瞭でした。「これは栄養剤だ」と誤解されるような伏線があったのかもしれませんが、個人的にはそこまでの流れがうまく拾えず、少し置いていかれてしまった感覚がありました。

 それでも、やはり少女たちが戦争に翻弄されていく姿には胸を打たれました。戦争という巨大な力の中で、名前も知られぬまま命を落としていく存在。その一人ひとりの表情に光を当てた構成は、鑑賞後も長く記憶に残るものでした。特にラスト、生き残った級長のもとに現れる“幻”のような場面では、過去の記憶と未来への祈りが交差するようで、静かな感動がありました。

 過去の出来事を描きながらも、そこには現在に通じる問いがいくつも含まれていて、戦争を知る世代から知らない世代へと、何を残し、何を受け継ぐのかという重みのあるテーマがしっかりと込められていたと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2011/09/05 DVD

監督佐々部清 
脚本青島武 
原作浅田次郎
出演堺雅人 
中村獅童 
福士誠治 
ユースケ・サンタマリア 
八千草薫 
麻生久美子 
ミッキー・カーチス 
森迫永依 
塩谷瞬 
八名信夫 
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