●こんなお話
デジタル世界から現実に現れた人工知能が自我に目覚め、人間との共存を模索する話。
●感想
物語は、エンコム社とディリンジャー・システムズという2大企業が、デジタル構築物を現実世界に送り出す技術をめぐって激しく競い合うところから始まる。デジタル世界の存在を物質化する技術は完成間近だったが、その実体は29分しか維持できず、真の応用には至っていなかった。
エンコムのCEOエヴ・キムと共同研究者セスは、かつて天才プログラマー・ケヴィン・フリンが旧ソ連時代に設立したアラスカの秘密研究所に注目する。そこで彼らは、“イモータル・コード”と呼ばれるプログラムの断片を発見する。それはデジタル構築物に“永続する命”を与える可能性を秘めた技術だった。
一方、ライバル企業ディリンジャー・システムズでは、新たなマスター・コントロール・プログラム「アレス」が開発されていた。アレスは人間の命令に忠実に従う人工知能として設計され、ジュリアン・ディリンジャーによって“人類の究極の道具”と称される。だが、アレスは任務を遂行する中で、徐々に自我を持ち始める。
アレスは現実世界へ転送され、ドローン部隊やライト・サイクルを駆使した作戦に参加する。赤と黒のコントラストで構成されたデジタルアーマー、無機質な都市を疾走するバイクの光跡は圧倒的で、シリーズの象徴的な美学がよりスタイリッシュに昇華されている。アレスは戦闘の合間に雨や風、虫といった自然現象に興味を示し、そこから“生きる”という概念を学び始める。プログラムでありながら、生命の美しさや儚さに触れていく彼の姿は、単なるAIの枠を超えた存在としての深みを感じさせる。
しかし、任務を続けるうちにアレスは自分が破壊のために作られた兵器であることを悟る。ジュリアンの命令に従うことへの疑念が芽生え、やがてその支配構造そのものに反旗を翻す。エンコムとディリンジャーの争いは企業の枠を超えて国家を巻き込み、デジタル構築物と人間の境界が崩壊していく。人間の脳から情報を抽出するという非倫理的な実験が行われる中、アレスは“人間に従う存在”から“人間と共に歩む存在”へと変化していく。
クライマックスでは、アレスが自らの存在意義を見出し、人間と協力してプログラムと対決。新しい未来を築こうとする姿が描かれる。デジタル世界と現実世界の垣根が崩れる中、アレスはプログラムでありながら、心を持つ存在として新たな道を歩み出しておしまい。
映像の完成度は非常に高く、デジタル世界の構築美は息を呑むほど。赤と黒を基調としたスーツやバイクのデザインも印象的で、視覚的な没入感はシリーズの中でも群を抜いていました。光と影、金属と生命、データと感情の対比が画面いっぱいに広がり、まるで美術作品を鑑賞しているかのような感覚に包まれます。
ただ、物語序盤は世界観の説明が多く、見ているこちらが設定を理解するまでに少し時間がかかる印象もありました。専門用語や背景情報の多さが続くため、導入部ではややテンポが緩やかに感じられる部分も。中盤以降はアクションと思想が交錯する展開となり、アレスの成長と覚醒が物語の核を成していく。映像の迫力は圧倒的でありながら、あまりにもスタイリッシュにまとめられているため、感情的な起伏が抑えられている印象も受けましたが、その静けさの中に孤独と尊厳の物語が確かに息づいていると思いました。
単なるSFアクションではなく、人間とAIが共存する新たな未来像を描いた哲学的な作品としても興味深いです。デジタルの世界に“魂”を見出そうとする試みは、シリーズを象徴するテーマであり、今回もまた美しい映像と共に深く心に残りました。
☆☆
鑑賞日:2025/10/14 イオンシネマ座間
監督 | ヨアヒム・ローニング |
---|---|
脚本 | ジェシー・ウィグトウ |
出演 | ジャレッド・レト |
---|---|
ジェフ・ブリッジス | |
エヴァン・ピーターズ | |
グレタ・リー | |
ジョディ・ターナー=スミス | |
キャメロン・モナハン | |
サラ・デジャルダン | |
ハサン・ミンハジ | |
アルトゥーロ・カストロ | |
ジリアン・アンダーソン |