●こんなお話
真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦までの半年間の日米両軍の話。
●感想
第二次世界大戦の開戦前夜、1937年。日本の将校・山本五十六はアメリカ情報将校レイトンと親交を結んでいた。山本はアメリカからの石油供給が止まれば日本が追い詰められると訴え、戦争を避ける道を模索していた。しかし、時代の流れは容赦なく、1941年12月、日本海軍はハワイ・真珠湾への奇襲攻撃を敢行する。炎上する戦艦、轟音とともに崩れ落ちる艦隊。アメリカ太平洋艦隊は壊滅的な被害を受け、多くの兵士が命を落とした。
その中で、空母「エンタープライズ」に所属するパイロット、ディック・ベストは仲間思いで勇敢な男だったが、上官の命令に逆らう一面も持っていた。真珠湾での惨状を目の当たりにした彼は、報復を誓い、仲間のマッカスキーやリンゼイとともに日々訓練を重ねていく。一方、日本海軍では山本五十六の指揮のもと、アメリカ空母を誘い出し殲滅するためのミッドウェイ作戦が立案されていた。参謀の南雲忠一は作戦の成功を確信し、準備を進めていく。
アメリカ側では情報将校レイトンが日本の暗号通信を解読し、敵の狙いがミッドウェイ島であると見抜く。しかし上層部のニミッツ提督は慎重な姿勢を崩さない。やがて暗号の解読が確実となり、ニミッツは空母部隊をミッドウェイに配置。太平洋の運命を分ける戦いが始まった。
1942年6月、ミッドウェイ海戦が勃発。日本軍の航空隊が先制攻撃を仕掛け、ミッドウェイ基地は大きな損害を受ける。しかしアメリカ軍も反撃を開始し、空母から次々と飛び立つ爆撃機が雲を突き抜けて敵艦を目指す。雷撃隊の多くは撃墜され、海面に炎が走る。だが、雲の切れ間から敵艦隊を発見したベストとマッカスキーら急降下爆撃隊が突入し、精密な攻撃で日本の空母を撃沈。炎上する甲板、逃げ惑う乗員たちの姿が描かれる。南雲は退艦を命じ、最後に残った山口多門率いる空母をペストたちが急降下爆撃をして大爆発。山本は静かに敗戦を受け止める。戦闘は決着し、日本は主力空母を喪失するという痛恨の打撃を受けた。アメリカ側も多くの犠牲を払いながら、ベストらが英雄として迎えられておしまい。
ローランド・エメリッヒ監督作品らしい、その壮大なスケールとVFXの迫力が印象的でした。空母から飛び立つ戦闘機の群れ、砲弾が空を裂く中での急降下爆撃、そして炎に包まれる艦艇。これらの映像はまるで観客を戦場の只中に連れ込むようで、映画館の大スクリーンでこそ真価を発揮する作品だったと思います。特に、空戦シーンのカメラワークは非常に立体的で、俯瞰と主観を巧みに行き来する演出には圧倒されました。
物語は群像劇として構成されており、アメリカ軍の司令部、日本の参謀たち、現場のパイロットなど、さまざまな立場の人間模様が交錯していきます。ニミッツ提督や情報将校レイトン、実行部隊のドゥーリトルらがそれぞれの使命を背負い、国家の命運を懸けて行動していく姿は、戦争の裏にある個々の葛藤を感じさせるものでした。戦闘だけでなく、破損した空母を修理して再び出撃させるエピソードや、珊瑚海海戦の描写など、史実を踏まえた展開も見応えがあります。
その一方で、テンポはやや淡々としており、登場人物への感情移入が難しい部分もありました。群像劇の宿命でもありますが、一人ひとりの人物像が掘り下げられないため、ドラマとしての厚みに欠ける瞬間も見受けられます。また、情報戦の描写も「暗号解読」や「偽情報工作」といった要素が駆け足で処理されており、もう少し知略の駆け引きを見たかった印象もありました。
映像面では、エメリッヒ監督らしいダイナミックなスペクタクルが展開する一方で、CG描写が前面に出すぎている場面も見受けられます。空戦のリアリティよりも、映像美としての完成度を優先しているようで、まるでゲームのような感覚を覚える部分もありました。しかし、それを補って余りある迫力と臨場感があり、視覚的な快楽としては圧倒的でした。
日本側の人物描写が丁寧に描かれていたのは印象的でした。南雲中将や山口多聞といった人物たちは決して単なる敵として描かれず、それぞれの信念や覚悟が伝わる造形になっており、ドラマ全体の重層性を高めていました。敗戦を前にしてもなお誇りを捨てない姿には、戦争映画としての静かな尊厳がありました。
総じて、『ミッドウェイ』はエメリッヒ監督の演出が生み出す壮大な映像体験を通して、歴史の転換点を鮮やかに描いた作品だったと思います。戦争の悲劇をスペクタクルとして再現しながらも、そこに生きた人々の勇気と誇りを刻みつける。史実をエンターテインメントとして昇華させた力強い一本でした。
☆☆☆
鑑賞日:2020/09/16 TOHOシネマズ川崎 2021/01/29 DVD 2022/04/03 NETFLIX 2025/10/23 U-NEXT
| 監督 | ローランド・エメリッヒ |
|---|---|
| 脚本 | ウェス・トゥーク |
| 出演 | エド・スクレイン |
|---|---|
| ルーク・クラインタンク | |
| ウディ・ハレルソン | |
| デニス・クエイド | |
| パトリック・ウィルソン | |
| 豊川悦司 | |
| 浅野忠信 | |
| 國村隼 | |
| アーロン・エッカート | |
| ルーク・エヴァンス |


