映画【秒速5センチメートル】感想(ネタバレ):届かない想いを描く静かな青春

5cm
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●こんなお話

 恋愛全3話の短編アニメーション。

●感想

 第一話「桜花抄」では、小学生の貴樹と篠原明里の淡い恋が描かれる。転校をきっかけに距離が生まれ、それでも互いを想い続ける二人。雪の夜、貴樹は栃木へ向かうが、列車は雪で遅れ、待ち合わせの駅に着いたのは深夜だった。明里は冷たいホームでじっと彼を待ち続けていた。再会した二人は小さな待合室で語り合い、やがて雪原で初めての口づけを交わす。手紙を渡そうとして失くしてしまった貴樹は、翌朝、眠る明里を見届けて静かに駅へ向かう。列車が動き出すと、雪は止み、夜が明けていく。

 第二話「コスモナウト」は、種子島を舞台に、成長した貴樹と彼を想う少女・澄田花苗の物語。貴樹は空を見上げ、何かを探すような日々を過ごしている。花苗はバイクで通学しながら、いつも彼の視線が自分ではなく、遠い何かに向けられていることに気づく。ロケットの打ち上げの日、花苗は想いを告げようとするが、結局その言葉を飲み込み、光が夜空を貫くのをただ見上げる。その光は、届かない想いの象徴のように静かに彼女の心に残る。

 第三話「秒速5センチメートル」では、社会人になった貴樹が東京で働く姿が描かれる。忙しない日々の中で、彼の心は今も明里の面影に囚われている。明里は別の男性と婚約し、新しい生活を始めようとしていた。貴樹はそれを知らないまま、時折夢の中で彼女との日々を思い出す。ある日、踏切で女性とすれ違い、どこかで見たような気配を感じて振り返る。女性も一瞬立ち止まるが、電車が二人の間を遮り、列車が通り過ぎた後には誰の姿もない。貴樹は静かに笑い、歩き出す。その表情には、長い年月を経てやっと何かを受け入れたような穏やかさがあった。

 本作の魅力は、細部まで計算された映像美と、音楽、そして時間の流れを描く繊細な感性にあります。舞い落ちる桜の花びら、白い雪、夕暮れの光、電車の走る音。どれも美しく、儚さを感じさせる表現で、何度見てもその風景に引き込まれます。新海作品特有の透明感のある色彩は、登場人物の心情をそのまま映し出しているように感じます。

 ただ、全編を通して主人公のモノローグが多く、自分の内面を語る言葉が途切れることなく流れていくため、少し距離を感じる部分もありました。映像の美しさに対して、語りの重さが上回る瞬間もあり、感情の余白を観客に委ねる余地が少ないように思いました。青春を繊細に切り取っている一方で、その美しさがあまりにも理想化されており、現実の青臭さや不格好さが削ぎ落とされているようにも感じます。

 しかし、それこそが本作の詩的な魅力でもあります。過ぎ去った時間は戻らず、心に残るのは思い出の断片だけ。届かなかった想い、交わらなかった人生の速度。それらを映像のリズムで描くことで、「秒速5センチメートル」というタイトルが持つ儚さを体現しています。ラストの踏切のシーンには、再会の奇跡よりも「それでも生きていく」という静かな決意が込められており、観る者の心に柔らかく残ります。

☆☆

鑑賞日:2014/12/27 Hulu 2025/10/13 U-NEXT

監督新海誠 
脚本新海誠 
原作新海誠 
出演(声)水橋研二 
近藤好美 
花村怜美 
尾上綾華 
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