映画【決戦は日曜日】感想(ネタバレ):政治とコメディが交錯する、笑って泣ける選挙ドラマ

The Sunday Runoff (2022)
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●こんなお話

 選挙に立候補した候補者と秘書たちの話。

●感想

 物語は、ぬかるんだ田舎道をずぶ濡れになりながら、倒れそうな議員を背負って講演会場まで運ぶ秘書の姿から始まります。大勢の聴衆の前で演説をこなす議員の影で、彼を支える秘書の献身が描かれ、この冒頭だけでもすでに現場の過酷さが伝わってきます。

 そんな中、時代は少し先へ進み、その議員が倒れたという知らせが入り、急遽「跡取りは誰にするか」が焦点になります。事務所や後援会の間で様々な思惑が交錯する中、結局のところ誰にも文句が言えないようにするためにと折衷案のようなかたちで、議員の娘が後継者として担ぎ上げられることに。

 娘は真面目でやる気もあるように見えるのですが、実際には原稿の漢字が読めずに冷やかされたり、後援会の古参たちと衝突してしまったり。秘書はそんな彼女に振り回されることになり、目が回るような忙しさの中で、次第に疲弊していきます。ただ、その中でも娘さんは正論を口にしたり、古くからの政治のやり方に違和感を持つようになり、少しずつ自分なりの考えを持ち始めます。

 やがて、すべてが嫌になった娘は「もう辞めてやる」と感情を爆発させますが、さらに衝撃的なのは、父親の過去の不正があっさりと「秘書のせい」にされてしまう展開。そんなことで責任を押しつけられるのかと観ていて驚かされました。社会的信用を失うリスクをちらつかされ、何も変えられない現実を突きつけられた娘は、言葉を失います。

 秘書の方も、そんな現状や自身の幼い娘の存在を思い返すうちに「このままではいけない」と心を決めます。そこから候補者と共に、ある意味では選挙に落ちるための“奇行”を繰り返していきます。常識を外れた行動の数々に一時は事態が悪化するかと思われましたが、思わぬかたちでコアな層に刺さったり、わざと流した不利な情報が他のニュースに埋もれて効果が薄れたり、SNSでのミーム化が逆に人気を後押ししたりと、主人公たちの思惑とはまるで違う方向へ物語が進んでいきます。

 選挙当日、予想外にも当選を果たした主人公に対し、秘書が「できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかだ」と静かに語りかけるラストは、爽やかな余韻を残しました。

 最初は“おバカな候補者に振り回される秘書のコメディ”なのかと思いきや、選挙戦が進むにつれて政治の裏側にいる秘書や事務方の存在がどんどん怖くなっていきます。候補者の足元を見るような脅迫や、既得権益を守ろうとする後援会の硬直した考え方に触れる場面には、ある種のホラー映画的な怖さも感じられました。

 主演の役者さんたちはもちろん、選挙事務所にいるスタッフの空気感、そして何より後援会の年配者たちの反応ひとつひとつがとてもリアルで、物語に奥行きを与えていたと思います。一喜一憂しながら候補者に振り回される彼らの姿は、笑えて切なく、どこかで現実と重なるようでもありました。

 単なる政治劇ではなく、コメディ・ヒューマンドラマ・社会風刺が絶妙にブレンドされた作品だったと思います。政治に興味がない方でも、登場人物たちの人間臭さや思わぬ展開の連続に引き込まれてしまう、そんな一作でした。

☆☆☆☆

鑑賞日:2023/02/01 WOWOW

監督坂下雄一郎 
脚本坂下雄一郎 
出演窪田正孝 
宮沢りえ 
赤楚衛二 
内田慈 
小市慢太郎 
音尾琢真 
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