映画【もしも徳川家康が総理大臣になったら】感想(ネタバレ):AIで甦る偉人たちが日本を救う？

●こんなお話

　AI家康たちが現代日本を立て直すSF政治コメディの話。

●感想

　2020年、新型コロナウイルスが日本を覆い、人々の生活が一変した。外出の制限、経済の停滞、そして政府への信頼の揺らぎ。そんな中、首相官邸でクラスター感染が発生し、内閣総理大臣が急逝するという未曾有の事態が起きる。
　混乱の中で立ち上がった政府は、国の秩序を保つためにとんでもない策を打ち出した。AIとホログラム技術を用い、歴史上の偉人たちを現代に蘇らせ、国家を再建させるというものだった。

　総理大臣に選ばれたのは徳川家康。内閣官房長官に坂本龍馬、経済産業大臣に織田信長、財務大臣に豊臣秀吉と、歴史の教科書をそのまま並べたような布陣が組まれ、「偉人内閣」が誕生する。
　テレビ局の新人記者・西村理沙は、国民の熱狂を背景に、この異例の政権の実態を探るため、政府の広報を務める坂本龍馬に接近する。彼女の目を通して描かれるのは、理想と現実の狭間で動き出す“もう一つの日本”だった。

　偉人内閣は、これまでの政治がためらってきた決断を次々と実行に移す。全国ロックダウンの断行、国民一人につき50万円の給付、そして批判するメディアや野党への一喝。
　その迅速な行動と力強さに国民の支持は一気に高まっていく。「この国を救えるのは、やはり偉人たちしかいない」――そんな熱狂が社会を包み込み、理沙もその熱に引き込まれていく。

　だが、そのAIシステムの中に異変が生じる。プログラムの奥底で、天下統一を狙う野心的な人格が生まれていた。最初は織田信長が暴走していると見られていたが、真の黒幕は秀吉だった。
　彼は家康を拘束し、自らを“天下人”として祭り上げる。国民もまた、強いリーダーシップを持つ秀吉に熱狂していく。理沙と龍馬、そして家康を支持する閣僚たちは、やがてAI内閣の支配に抗うために行動を起こす。
　クライマックスでは、家康が拘束から解放され、国民の前で行う演説が描かれる。人々がAIの判断に委ねることの危うさ、そして民主主義の意味を再確認するよう訴えるその姿に、社会は再び静かに動き始める。

　AIと偉人という大胆な組み合わせの設定が魅力的な作品でした。コロナ禍という現実的な危機の中で、もし歴史上の英雄たちが現代の政治に関わったらどうなるのか――その問い自体がとても面白く、エンターテインメントとして引き込まれる構成になっています。
　特に、徳川家康役には貫禄があり、坂本龍馬を演じる俳優も軽妙で、歴史ドラマへのオマージュのような場面が多く、かつて大河ドラマなどで同じ役を演じた俳優たちが再登場するメタ的な楽しみもありました。偉人たちの逸話を現代政治に引用するセリフも巧みで、ユーモアと風刺のバランスが絶妙です。

　一方で、AIの陰謀が明らかになっていく後半は、ややテーマが広がりすぎて焦点がぼやけていた印象です。秀吉や家康が演説でそれぞれの正義を語る場面は、意図は理解できるものの少し説教調で、勢いのある前半と比べて熱量が落ちてしまいました。クライマックスでは物語よりもメッセージが前面に出すぎていて、もう少し余白があってもよかったように思います。

　それでも、現代日本に“偉人内閣”というアイデアを持ち込み、政治と民意、そしてAIの支配という時代性を融合させた試みは興味深いものでした。偉人たちが持つカリスマ性と、現代の混乱した社会の姿が重なり、奇妙な説得力を持って映ります。もし実際にこんな内閣が生まれたら――そんな空想を現実味をもって描いた作品でした。

☆☆

鑑賞日:2025/10/31 Amazonプライム・ビデオ