映画【激動の昭和史 沖縄決戦】感想(ネタバレ):沖縄戦を描く重厚な群像劇、2時間半の記録に込められた想い

Battle of Okinawa (1971)
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●こんなお話

 沖縄戦の話。

●感想

 沖縄戦を描いたこの映画は、陸軍第32軍の司令官や参謀といった軍上層部から、前線の兵士たち、そして一般の民間人まで、膨大な視点で物語を編んでいきます。次から次へとカットが重ねられ、無数の死が映し出される2時間30分。これだけ多くの死が画面にあらわれる映画はそうなくて。見ている最中は、苦しさや痛ましさが胸にじわじわと染みてきます。

 けれども、あの戦場の現実は、それ以上に過酷だったはずで。私たちが現代を生きている以上、知らなくてはいけないことがある。そのひとつの手がかりとして、この映画を観る意味があると思わされました。

 作中には、重症患者に毒を飲ませる場面、自決のためにカミソリで命を絶とうとする人々、集団で手榴弾を抱えて死を選んだ民間人。さらには、それでも死にきれなかった者たちが、家族をこん棒や鎌で殺していくという、信じられないほどの現実が次々に映し出される。10代の少年が、総攻撃の前に「自分が死んだら遺骨を拾ってほしい」と近所の大人に頼む姿や、少女たちが服毒死を選ぶ様子など、胸に迫る場面が次々と押し寄せてきます。

 描写はすべて非常に速いテンポで進んでいき、見ているあいだは考える余裕も与えてくれない。ただ、映画が終わってから、あの映像の意味をじっくり考える時間こそが、この作品の核心なのかもしれません。日常の平和のなかでこそ、あのときの非日常を振り返ることが必要なのだと思いました。

 どうしてこの人たちは死ななければならなかったのか、どうしてここまでの状況になったのか。鑑賞中、何度もその疑問が頭に浮かび、涙が込み上げそうになる瞬間がありました。

 軍の上層部として登場するのは、小林桂樹さん演じる第32軍の司令官。参謀長に丹波哲郎さん、高級参謀に仲代達矢さんが配され、戦略として持久戦か攻撃かで揺れながら、大本営との軋轢に苦しむ様子が描かれていく。海軍の大田実司令官には池部良さんが扮し、史実にも残る最後の電報「沖縄県民かく戦えり。県民に対し、後世特別の御高配を賜らんことを」が静かに語られる場面は、心に残ります。

 神山繁さんが演じたのは、沖縄県知事・島田叡。知事就任を依頼される電話を受けたあと、奥さんに「なんだったの?」と聞かれて「私が断れば、誰かほかの人が行くことになる」と語る。戦地へ向かうその覚悟が、静かに、しかし力強く表現されていました。彼が現地に赴任してからは、県民の避難や疎開に尽力する姿が丁寧に描かれています。

 登場するのは、ひめゆり学徒隊、鉄血勤皇隊、義烈空挺隊、野戦病院。どれもが過酷で、あまりにも重く、目を背けたくなるような現実でした。前線の戦闘もまた丁寧に描かれており、登場人物たちがどのように戦場を生き、そして死んでいったのかが描かれていきます。

 ただ、戦局がどのように進んでいるのか、映画内だけでは少しわかりにくい部分もありました。ナレーションによる補足はありますが、観終わったあとに背景を調べたくなる内容でもあります。そして予算の関係か、米軍の圧倒的な物量が描かれるシーンに映像としての迫力が欠けていたのは否めません。「船が7、海が3」と報告されるほどの密度の艦隊がやってくるシーンで、肝心の海が映されなかったのは少し残念でした。

 それでも、この映画の意味が損なわれることはありません。沖縄県民の戦没者は15万人。住民の約3分の1が命を落としたというナレーションが流れるその瞬間、言葉にならない想いが込み上げてきました。静かに、しかし確かに、この映画は問いかけてきます。私たちは、これを知っていなくていいのか。あの地で起きたことに、目を向けずにいられるのか、と。考える1作でした。

☆☆☆☆☆

鑑賞日:2011/09/03 DVD 2013/06/08 DVD

監督岡本喜八 
特殊技術中野昭慶 
脚本新藤兼人 
出演小林桂樹 
丹波哲郎 
仲代達矢 
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