●こんなお話
明らかに怖い一族の遺産相続の殺人事件に挑む金田一さんの話。
●感想
静かな湖畔にたたずむ古びた屋敷、そこに集う名家・犬神家の人々。物語は、その犬神家の当主が亡くなる場面から始まる。早々に場面を支配するのは、大野雄二さんのあの音楽。高らかに鳴り響く【愛のバラード】に乗せて、「市川崑監督作品」の文字が明朝体でどーんと表示される。まるで観客の覚悟を試すような荘厳なオープニング。ここだけでもう一本の映画として成立してしまいそうなほどの完成度で、スクリーンから立ち上がる緊張感に早くも背筋が伸びる。
金田一耕助が犬神家に招かれるきっかけとなったのは、遺産相続に関する相談だった。三姉妹、それぞれの婿、そして彼らの子どもたち。さらには妾の存在とその子どもまで含めると、人物関係は一筋縄ではいかない複雑さ。登場人物が紹介されていく序盤は、まるで人物相関図とにらめっこをするかのような気分になる。次第にその人物たちのあいだで火花が散りはじめ、遺産をめぐる欲望がむき出しになっていく様は圧巻の一言だった。
とくに、遺言状が読み上げられるシーン。思い通りにならなかった人物たちが一斉に怒声を上げ、カット割りも高速になって、会話が交錯するそのテンションに思わず笑ってしまった。演出がもはや美学として成立していて、その怒りすら様式美に感じられるのが、この映画の面白さのひとつだと感じる。
そして事件が起きる。独特の死体のポージングや、どこか芝居がかった照明の演出、日本家屋の持つ静謐な不気味さ。それらが一体となって、どの場面にも常に何かが起こる気配が漂っている。これぞ市川監督の手腕なのだと改めて唸らされた。
一方で、金田一耕助がほとんど推理らしい推理をしていないようにも見えるのだが、そこはあまり気にせずに楽しむのが良いと思う。連続殺人を止められていないではないか、と突っ込む気持ちもあるのだが、それ以上に登場人物たちの強烈さに引っ張られて、物語は十分に成立していたと思います。
スケキヨのビジュアルも、やはりこの作品を語る上で外せない。仮面をつけてたたずむ姿には、単なる奇抜さを越えた存在感があった。「母さん、スケキヨです」の一言には、観客の記憶に深く刺さる何かがある。あれで走ったら暑そうだし、汗をかいたらどうなるんだろうと、ふと現実的な心配までしてしまうほどの印象を残してくれました。
中盤以降、事件の真相に迫っていくなかで、ただのミステリーとして終わらない仕掛けも用意されている。途中で犯人が明らかになったかと思えば、それはまだ氷山の一角で、そこに隠されていたのは、ある親子の愛と、戦争が残した深い爪痕。140分という上映時間の中で、そうした人間のドラマを丁寧に浮かび上がらせていた点にも感心させられました。
振り返ってみれば、金田一耕助がいったいどこで何を調べていたのかは、やはり少し不明なままでもありました。ただ、それすらも含めて味わい深く感じられるのが本作の力。殺人事件を軸にしながら、重厚な人間関係、映像美、そして音楽がすべて有機的に絡み合った、古き良き日本映画の醍醐味を味わえる一作でした。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2013/05/23 DVD
監督 | 市川崑 |
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脚本 | 長田紀生 |
日高真也 | |
市川崑 | |
原作 | 横溝正史 |
製作 | 角川春樹 |
出演 | 石坂浩二 |
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高峰三枝子 | |
三条美紀 | |
草笛光子 | |
あおい輝彦 | |
地井武男 | |
川口晶 | |
川口恒 | |
金田龍之介 | |
小林昭二 | |
島田陽子 | |
坂口良子 | |
小沢栄太郎 | |
加藤武 | |
大滝秀治 | |
寺田稔 | |
三木のり平 | |
横溝正史 | |
岸田今日子 | |
三谷昇 | |
辻萬長 | |
大関優子 | |
あおい輝彦 | |
原泉 | |
三國連太郎 |
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