●こんなお話
ペリリュー島の戦いで戦後も終戦を知らないままサバイブした将兵の話。
●感想
昭和十九年。南国の青い海に囲まれたパラオ諸島の小島・ペリリューに、若い日本兵の田丸が到着する。漫画家を夢見る穏やかな青年で、緊張と期待を胸に島へ足を踏み入れる。しかし着任して間もなく、米軍の砲撃が連日降り注ぐようになり、島は一気に戦場の空気へと変わる。仲間が次々と倒れ、混乱の中で田丸の隣にいた兵が転落事故で命を落とす。
この出来事を機に、部隊長の島田少尉から田丸は功績係を任される。戦死した兵の最期を記録し、報告書としてまとめる役目だった。絵を描く技量がある田丸だからこそ託された任務で、田丸は不安を抱えながらも淡々とその役を引き受ける。
海には米艦船が連なり、空には爆撃機が飛び交う。やがて上陸作戦が本格化すると、島は隠れ場所すら失われるほどの激戦に変わる。そんな中、田丸は吉敷上等兵と出会う。田丸と同年代ながら階級が高く、射撃も状況判断も優れている吉敷は、冷静な言動が際立つ人物だった。性格も立場も異なる二人だったが、田丸は自然と彼に惹かれ、共に行動するようになる。
田丸の所属する部隊は壊滅状態となり、残った兵たちは飢えと疲労に苛まれていく。やがて田丸と吉敷は少数の生存兵と合流するが、そこをまとめていたのはかつての上官・島田少尉だった。島田の指揮のもと、彼らは米軍の補給物資を奪う危険な奇襲作戦を成功させる。だが反撃に転じる力は誰にも残っておらず、洞窟を転々としながら消耗戦に身を置く日々が続く。
時は流れ、一年が終わり、さらに一年が過ぎる。外の世界がどう動いているのか、彼らにはほとんど伝わってこなかった。ある日、米軍が捨てたゴミの中から古い新聞を見つける。そこには日本の敗戦が報じられていた。最初は信じなかったが、吉敷は降伏を考え始め、戦争が終わっているなら確かめに行くべきだと口にする。
田丸は迷いながらも吉敷と共に行くと誓う。しかし脱走同然の行動は周囲に阻まれ、二人は拘束されてしまう。そんな折、手榴弾が突然炸裂し、混乱の中で二人は脱出する。先輩兵が二人を援護するが、彼も他の兵に殺される。田丸と吉敷は米軍キャンプを目指して密林を駆け抜ける。
道を塞いだのは島田少尉だった。戦友として、部下として長く慕ってきた相手を前に、吉敷は銃を向けられずに躊躇する。その刹那、島田の放った弾が吉敷を撃ち抜く。倒れた吉敷を背負い、田丸は米軍キャンプへ向けて歩き続け、そのまま投降する。
米軍の保護下に入った田丸は、潜伏している日本兵全員を投降させるべきだと提案する。功績係として描き残してきた記録には、兵士の故郷や家族の情報が詳細に残っていた。その資料をもとに、米軍に協力して家族の手紙を潜伏兵へ届ける作戦を行う。
手紙は多くの兵士の心を揺り動かし、やがて島に残っていた日本兵は次々と姿を現し、長い持久戦は終わりを迎える。帰国の船が準備され、田丸は亡き吉敷を胸に日本へ戻る。懐かしい実家の食堂の暖簾をくぐって親と再会しておしまい。
ペリリュー島の美しい風景の中で、米軍との厳しい戦闘や日本軍同士の価値観のぶつかり合いが描かれており、南国の光景と戦場の現実が並んで立ち上がる描写に強い印象を受けました。特に自然の明るさと戦況の重さが同時に存在しているような雰囲気が、作品全体の空気を支えていたように思います。
物語が後半に進むと、仲間たちが互いに銃を向け合う場面が続き、何を目指しているのか分からなくなる虚しさが漂い、その迷走が胸に残りました。その混乱が淡々と描かれることで、当時の行き場のなさがより強調されていたように感じます。
ただ、可愛らしいキャラクター表現や柔らかい背景画で戦争が描かれているため、危機感や痛み、苦しさが十分に伝わり切らない部分もあり、全体的に子ども向けの学習映像のような印象もありました。絵柄の温度と題材の重さが噛み合わず、仕上がりが軽いものに見えてしまう瞬間があります。
テンポもゆるやかで、展開が停滞する時間が長く、観ている間に眠気が強まる場面がありました。内容そのものは興味深いのですが、語り口の緩さが続くことで全体としては退屈な時間が少なくありません。作品の背景にある歴史は重いもので、もう少し物語としての緊張が保たれていればと感じました。
☆☆☆
鑑賞日:2025/12/07 イオンシネマ座間
| 監督 | 久慈悟郎 |
|---|---|
| 脚本 | 西村ジュンジ |
| 武田一義 | |
| 原作 | 武田一義 |
| 出演(声) | 板垣李光人 |
|---|---|
| 中村倫也 | |
| 天野宏郷 | |
| 藤井雄太 | |
| 茂木たかまさ | |
| 三上瑛士 |

