映画【ソード・オブ・デスティニー】感想(ネタバレ):美と武の調和を堪能する武侠アクション

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●こんなお話

 伝説の剣が欲しい人たちとそれを守る人たちの戦いの話。

●感想

 画面の奥深くまで広がる山々、その風景を背景に馬が駆け抜けていく序盤の描写から、一気に引き込まれる映像美が印象的な作品でした。まるで絵巻物をそのまま開いたような構図の美しさ、そして衣装や小道具の細部にまでこだわりが感じられる美術も魅力的で、スクリーンをただ眺めているだけでも心地よさがありました。中国武侠映画ならではの幻想的なスケール感と、空気までが澄み渡っていくような映像の透明感があり、冒頭から目を奪われました。

 そして、シャキン!シャキン!と金属が擦れる音とともに、次々と繰り広げられる剣戟アクション。戦いが続けばさすがに単調になるかと思いきや、飛び道具や棍、連結武器など多彩な武器が次々と登場し、それぞれの戦い方に個性があるため、見飽きることなく最後まで楽しむことができました。なによりドニー・イエンさんの滑らかで力強い動きの数々は、まさに見るだけで満足感がある存在感でした。無駄のない所作、すっと構えた瞬間に空気が張り詰めるような、長年積み上げてきた武術の重みが全身から伝わってくるようで、スクリーン越しに拍手を送りたくなります。

 物語は、伝説の剣「グリーン・デスティニー」を巡る争奪戦を軸に展開していきますが、その中で飲み屋で出会う仲間たちもとにかく濃いキャラクター揃いで、それぞれの登場が場面の空気をガラリと変えてくれます。出会ってすぐに意気投合して仲間になるという展開はやや唐突にも感じましたが、武侠作品ならではの様式美と勢いがあって、妙な説得力がありました。サイレントウルフ、アイアンクロウ、フライングブレード、サンダーフィスト。名前を聞いただけで何かとてつもない力を秘めていそうな、まさに子どもの頃に夢中になったヒーローのような名乗りに、思わずニヤリとしてしまいました。

 ただ、物語の随所に挟まれる過去の回想がやや多く、そのたびに本筋の流れが一旦止まってしまう印象がありました。ドニー・イエン演じる主人公がなぜ姿を消していたのか、若きヒロインの過去、さらにその話を聞いた別の登場人物がまた回想に入るという構成で、感情を盛り上げる前に次の説明が入るため、少し集中が切れてしまう場面もありました。過去を丁寧に描こうとする意図は伝わってきましたが、もう少し物語に溶け込ませるような演出であれば、より没入できたかもしれません。

 クライマックス直前、氷の上でグリーン・デスティニーを巡って繰り広げられる一騎打ちは見応えがあり、若手の戦士とドニー・イエンの対決には熱量が込められていました。そこにさらにアイアンクロウが参戦するなど、展開も盛り上がる場面なのですが、それまで命を賭けて戦っていた人物同士が、次の場面では急に協力し合っていたりするので、キャラクターたちの感情の動きがやや見えづらく、戸惑いを覚える部分もありました。

 また、アクションの迫力とは裏腹に、戦いの結果として誰がどう勝ったのかがやや曖昧な描写が続いていたのも気になるところでした。緊張感のある殺陣の最中、いつの間にか刃が突き刺さって勝敗がついていたという場面が何度かあり、もっと一太刀一太刀の意味や重みをしっかりと見せてほしかったと思います。戦いの理由、負けた悔しさ、勝者の葛藤など、そうした感情が感じられるような演出があると、さらに物語に深みが出たのではないでしょうか。

 とはいえ、全体としてはスケールの大きさと視覚的な美しさ、そして武侠アクションの粋を詰め込んだ映像体験がしっかりと伝わってくる一本で、見応えのある作品だったと思います。過去作とのつながりを知らなくても、ドニー・イエンさんのアクションと華やかなキャラクターたち、そして美しい世界観を堪能するには十分な内容でした。

☆☆☆

監督ユエン・ウーピン
キャストミシェール・ヨー
ドニー・イェン

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