●こんなお話
ビルマから日本へ帰ろうとする将兵さんたちの話。
●感想
部隊からはぐれた水島一等兵が、なぜ日本に帰らずビルマに残ろうとするのか、その理由がいまいち納得できなかったです。確かに、戦場に打ち捨てられた遺体や白骨化した仲間たちの姿は目を背けたくなるほどの悲惨さでしたが、それを見たからといって「置いていけない」と帰還を拒む気持ちには、現代に生きる自分にはなかなか共感しにくかったです。
そもそもこの作品は日本兵の視点だけで語られていて、ビルマ人の視点が一切描かれないのが残念でした。登場するビルマ人すら、全員が日本人俳優で演じていて、現地の人々が戦争をどう受け止めていたのか、日本兵に対してどんな感情を抱いていたのかがまったく伝わってこなかったです。ビルマという土地と人々がただの背景になってしまっていた気がしました。
それに、水島が僧侶の修行着を盗む場面には驚きました。どんな事情があれ、それをやってしまったらいけないだろうと違和感を覚えたりも。信仰や尊厳に対するリスペクトがもう少し丁寧に描かれていたら、あの場面も別の意味を持てたかもしれないです。
最後に語り部が「水島の家族はどう思うんだろう」とつぶやいて物語が終わりますが、正直そこが一番しっくりくるものでした。確かに家族の気持ちはどうなるのかって疑問がずっと残りました。
一方で、三國連太郎さんが演じた穏やかで知性と情を兼ね備えた隊長はとても印象的でした。音楽を愛するその姿勢は、戦争の中では異色だったかもしれないけれど、だからこそ心に残りました。終盤、水島から届いた手紙を読みながら言葉を詰まらせる場面は本当に感動的。
そして何より、水島が奏でる「仰げば尊し」のメロディには、言葉にできないものがありました。聞いた瞬間、日本人としての記憶や感情が呼び起こされて、胸が締めつけられるような思いになったり。あのシーンだけでも、この作品には観る価値があると感じました。
☆☆☆
鑑賞日:2011/12/26 DVD
監督 | 市川崑 |
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脚色 | 和田夏十 |
原作 | 竹山道雄 |
出演 | 三國連太郎 |
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浜村純 | |
安井昌二 | |
内藤武敏 | |
西村晃 |