映画【天と地と】感想(ネタバレ):上杉謙信と武田信玄の対峙を描く壮大な歴史絵巻

Ten to Chi to
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●こんなお話

 川中島の戦いの話。

●感想

 映画は、戦国時代の名勝負として知られる「川中島の戦い」を軸に、上杉謙信と武田信玄の対峙を描く。主人公は上杉謙信。信念に生きる人物として登場するが、冒頭から家臣の謀反やその家族に対する処断など、主君としての重責に押しつぶされそうになる姿が映し出される。謙信はその苦悩に耐えきれず、一時的に出奔するという選択をとるが、家臣の説得によってあっさりと戻ってくる。場面としては大きな転機を迎えたはずなのだが、その描写はあまりにも淡々としていて、主君としての苦しみや葛藤が、画面からはあまり伝わってこなかったです。

 物語はその後、信玄との対立へと進んでいき、名高い第四次川中島の戦いへとつながっていく。戦の準備、戦術、家臣たちのやり取りといった構成もありますが、どの登場人物もどこか感情が読み取りにくく、それぞれの決断や立場の背景に深く触れるような描写は少ないです。

 ただ、戦闘シーンのスケール感は特筆すべきもので、日本映画でここまでのスペクタクルを実現している作品はそう多くないと思います。赤と黒を基調にした映像は、まるで一枚の絵画のように美しく、画面手前では役者たちが丁寧に芝居をし、背景には本物の兵士たちが無数に動き回っている。そういった構図には息を呑むような臨場感がありました。

 第四次川中島の戦いは、この映画のクライマックスに位置づけられているますが、合戦シーンの演出はやや演劇的な印象があり、戦の緊迫感というよりは、年に一度の大規模な祭りを見ているような感覚に近いと思いました。長い槍を持った兵士たちが一斉に叩き合い、後方では動かず突っ立っている兵がいるという構図は、実際の合戦の混沌さよりも整然としすぎていて、盛り上がりには少し欠けるものでした。ただし、馬の登場数や陣形のスケールなど、視覚的な迫力は群を抜いていました。

 終盤、謙信が赤備えの軍勢の中を駆け抜けるシーンでは、何か心の変化が起きたようにも見えますが、その心境の変化がセリフや演出から十分に伝わってくるとは言い難い。決着というよりも、その先に何が残ったのか、少し戸惑いが残るラストでした。

 とはいえ、戦国大名たちの虚飾を取り払い、映像美と人の流れでドラマを描こうとしたその試みは力強く、特に数百人が画面の中で同時に動く場面など、日本映画の中でも非常に珍しい迫力がありました。こういった人海戦術による映像表現に触れることができたのは、映画館でこそ味わえる体験であり、歴史劇の新たな可能性を感じさせてくれる作品だったと思います。

☆☆

鑑賞日: 2013/04/23 Hulu

監督角川春樹 
脚本鎌田敏夫 
吉原勲 
角川春樹 
原作海音寺潮五郎 
出演榎木孝明 
津川雅彦 
浅野温子 
財前直見 
野村宏伸 
伊藤敏八 
浜田晃 
成瀬正孝 
大林丈史 
石田太郎 
風祭ゆき 
風間杜夫 
伊武雅刀 
岸田今日子 
大滝秀治 
沖田浩之 
室田日出男 
夏八木勲 
渡瀬恒彦 
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