映画【犬の首輪とコロッケと】感想(ネタバレ):怒りと笑いが交差する青春群像劇

inunokubiwa
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●こんなお話

 在日朝鮮人が喧嘩とかばかりしてたけど、お笑いの道へと進む話。

●感想

 物語は、主人公が街のあちこちでひたすら喧嘩を繰り返すところから始まっていきます。なぜここまで怒っているのか、なぜ日本人に対してこれほど敵意を抱いているのか、という部分に明確な描写が少なくて、冒頭から戸惑いを覚える展開となっていました。主人公が「俺が在日やからか!」と叫ぶ場面も登場しますが、その怒りの根っこがどこにあるのかが伝わってこないまま、ただ勢いだけで突っ走っているように見えてしまいます。

 もし、差別や理不尽な扱いを実際に受けているシーンがきちんと描かれていたならば、その怒りにも説得力が生まれたのかもしれませんが、本作ではそれがあまり感じられず、結果的にただ血の気が多くて喧嘩好きな若者たちという印象になってしまっていたと思います。

 物語の途中で、ある登場人物が命を落とす出来事があり、その描写も衝撃的なものでした。ただ、その死が描かれるトーンがややコミカルな方向に傾いていて、観客としてはどう受け止めるべきなのか迷いが生まれてしまいます。悲しんでいいのか、それとも笑うべきなのか。そのあたりの描き方がやや曖昧で、命の重みが軽く見えてしまう部分もありました。

 そんな物騒な空気の中、急に主人公がすれ違った友人から「突っ込みの才能がある」と声をかけられ、そこから漫才コンビを組む流れになっていきます。そして、次のシーンではすでにステージで爆笑を取る人気漫才師として活躍しているという急展開。あまりにも急な変化に、見ている側としては少し置いていかれる感覚もありました。漫才師になるまでの過程や、努力の積み重ねといったものがほとんど描かれないので、「本当に漫才ってそんなにすぐできるものなのか」と思わず首をかしげてしまいます。

 さらに、彼女が突然病気になってしまう展開も用意されていて、こちらも唐突な印象を受けました。人物の内面や人間関係の変化に時間をかけず、イベントが次々に押し寄せてくる構成なので、ひとつひとつの出来事が薄く感じられてしまうのがもったいなく感じます。

 全体を通して、一番印象に残ったのは、主人公に対してなかなか感情移入がしづらかったという点でした。常に怒っていて、衝動的に行動し、周囲に迷惑をかけるだけの存在に見えてしまったのは残念で、どこかで彼の苦悩や弱さ、あるいは人とのつながりの温かさなどを丁寧に描いてもらえると、また違った印象になったのではないかと思います。

 ただ、喧嘩の描写やテンポの良さ、役者陣のエネルギッシュな演技は見応えがありました。勢いで押し切るスタイルの作品として、独特の魅力はある一本だと思います。

鑑賞日:2012/07/31 DVD

監督長原成樹 
脚本稲本達郎 
出演鎌苅健太 
ちすん 
中村昌也 
宮下雄也
池田純矢 
波岡一喜 
宮地真緒 
街田しおん 
松尾貴史 
山口智充 
友情出演今田耕司 
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