●こんなお話
銀行強盗で盗んだお金をヤクザの主人公がぬすんで、ホテルの娘さんと知り合って、マンガから飛び出たみたいなヤクザさんたちから逃避行する話。
●感想
ヤクザに追われる男女の逃避行という、ある意味では王道のプロットを軸にしながらも、その周囲を取り巻く登場人物たちのキャラクター造形がとにかく濃くて強烈で、ストーリーそのものよりもキャラクターの印象が記憶に残るタイプの映画でした。
ナイフの達人であり、なぜかホーロー看板を収集している岸部一徳さんの風変わりな存在感や、犬のように嗅覚で追跡してくる鶴見辰吾さんの妙なリアリティ。さらに我修院達也さんが演じる殺し屋のキャラクターも、相変わらずのテンションで観客を圧倒してきます。その他にも、下っ端のヤクザたちがなぜそんな格好をしているのかとツッコミたくなるような装いで登場して、物語よりもまず見た目のインパクトで観る側の心をつかんできます。
物語としては、主人公がある女性と出会い、ヤクザに追われながら街を転々とする中で、銃撃戦や逃走劇が展開されていくという構成です。ただ、場面の合間に挿入される会話のシーンがやたらと長く、しかもそれが物語に深みを加えているかといえば、なかなかそうは思えず、正直なところただ時間が引き延ばされているように感じられてしまいました。
もう少し主人公とヒロインの関係性を掘り下げる方が、話としても感情としても引き込まれやすかったかもしれません。ヒロインがホテルの強権的なオーナーのもとで働いており、そこから逃げ出したいという動機は明確に描かれていましたが、主人公がなぜそこまでして彼女と行動を共にするのかが少しぼんやりしていたように感じます。銀行強盗のときに助けてもらったからという流れなのかもしれませんが、命を懸けるほどの理由がいまひとつ伝わりづらく、感情移入に時間がかかりました。
さらに、主人公の兄貴分として登場する寺島進さんの動機もあやふやで、「夢の中で二人を救えと言われたから」といったセリフで説明されても、観ているこちらは少し戸惑ってしまいます。そのあたり、もう少し物語の中で整理された動機づけがあると、観る側としても物語に入り込みやすくなったかと思います。
とはいえ、編集のテンポが良い場面も多く、省略を活かした場面転換には独特のリズムがありましたし、銃撃戦の場面では迫力も感じられて、画面としてはとても楽しめました。キャラクターたちが動き回るだけでも面白く、演者の勢いと演出の工夫で最後まで走り抜けた印象です。
全体で100分の上映時間ですが、60分程度の中編作品として構成されていたら、もっとスピーディーで濃縮された内容になっていたのではないかという印象も残ります。キャラクターとテンションの高さで押し切る映画として、特異な魅力を持っている作品だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2014/03/17 DVD
監督 | 石井克人 |
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脚色 | 石井克人 |
原作 | 望月峯太郎 |
出演 | 浅野忠信 |
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小日向しえ | |
岸部一徳 | |
寺島進 | |
真行寺君枝 | |
鶴見辰吾 | |
島田洋八 | |
我修院達也 |