●こんなお話
井伊直弼を守れなかった侍が桜田事件の実行犯の生き残りを暗殺しようと13年間追いかける話。
●感想
主君の仇を追い求めるひとりの男と、ただひたすらにその背中を見つめ支え続ける妻。物語は、雪の積もる日本の原風景の中、静かに始まっていく。古き良き時代の面影をまとったラブストーリーであり、忠義と人生の意味を問う作品として、心に残る一本でした。
主人公は、かつて仕えていた井伊直弼の警護役だった男。あの日、警護に就いていながら襲撃を防げず、その失敗の重みを背負うかたちで生き続けることになります。切腹すら許されず、命じられたのは、暗殺に関わった生き残り五人の首を探し出して、墓前に供えよというもの。忠義と償いの旅は、それから十三年という歳月をかけて続いていきます。
しかしその過程は、淡々と語られていくのみで、あまり実感として伝わってこない部分もありました。年月が経っているはずなのに、主人公にもその妻にも、外見的な変化が乏しく、年月の重さや苦労が視覚的に伝わりにくかったことが少しもったいなかったです。ただ、その分、言葉や佇まいから心情を読み取る楽しみはありました。
ついに迎えるクライマックス、十三年追い求めた相手と柘榴坂で相対する場面は、物語の山場として期待が高まる瞬間です。刀を抜くのか、許すのか。それとも何か別の選択をするのか。長年の因縁に終止符が打たれる瞬間として、その決断をじっと見つめる時間でした。ただ、ここまで物語を引っ張ってきた割には、その答えがややあっさりとしており、心が揺さぶられるほどの緊張感には届かなかった印象も。
とはいえ、最後にそれぞれが大切な人のもとへ戻っていくという結末には、静かな感動がありました。忠義と愛、その狭間で揺れながらも、最終的に「誰かと生きていく」ことを選んだ姿に、人としての温かさを感じました。人の命というのは、個人だけのものではなく、共に生きようと願ってくれる人の存在によって支えられているのだと、あらためて教えてもらえたように思います。
派手な立ち回りや壮大なスケールを求めるタイプの映画ではありませんが、静かに心に残るものがありました。男性の愚直さや不器用さに、思わず「男ってそういうところがあるよね」と笑ってしまうような、そんな優しさを含んだ作品でした。
☆☆☆
鑑賞日: 2014/09/21 TOHOシネマズ南大沢 2015/05/19 DVD
監督 | 若松節朗 |
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脚本 | 高松宏伸 |
飯田健三郎 | |
長谷川康夫 | |
原作 | 浅田次郎 |
出演 | 中井貴一 |
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阿部寛 | |
広末涼子 | |
高嶋政宏 | |
真飛聖 | |
中村吉右衛門 | |
吉田栄作 | |
堂珍嘉邦 | |
近江陽一郎 | |
木崎ゆりあ | |
藤竜也 |
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