●こんなお話
相変わらずみんなで殺し合いをする第3弾。
●感想
トラックに揺られながら海に向かう冒頭のシーン。シリーズを通しての主人公が助手席に座り、子分と他愛ないやり取りを交わす場面から映画は始まります。そして夜の街へ舞台は切り替わり、黒塗りの車が画面を横切っていく中で、赤文字のスタッフロールと共にタイトルが浮かび上がるという流れは、初っ端から心を掴まれる格好良さがあったように感じました。ネオンが瞬く中に浮かぶハングルの看板や、韓国の夜景を背景に描かれる異国感には独特の雰囲気があり、不思議な世界観がしっかりと立ち上がっていたと思います。
物語は、韓国での関西ヤクザとのトラブルをきっかけに再びパワーゲームが展開されていきます。前作では関東と関西の言葉による応酬が迫力ある掛け合いとして記憶に残っていたのですが、今作ではそのやり取りにやや勢いがなくなっていた印象を受けました。演じている俳優陣の年齢的なこともあるのかもしれませんが、怒鳴り合いというよりも、抑揚の少ない会話が多くなっていて、どこか控えめなトーンになっていたように感じます。言葉のぶつかり合いから生まれる緊張感が少なくなっていて、少し寂しさを覚えてしまいました。
これまで群像劇の中で軸となっていた刑事の存在も今作では描かれておらず、特に小日向文世さん演じるキャラクターが不在だったことで、物語の推進力がやや弱くなってしまった印象もあります。彼のような立ち回りが上手な人物が登場してこない分、組織同士が勝手に衝突して勝手に崩れていくという流れが強調されていたように思いました。そのため、ストーリーの展開が直線的で、山場や転換点が弱く感じられてしまう場面もありました。
前作で大きな存在感を放っていた花菱会の西田敏行さんや塩見三省さんのキャラクターも、今作ではどこか力を失ってしまったかのような雰囲気があり、頼れる存在というよりも、時代に取り残された印象が拭えなかったです。新しい会長が登場してすぐに内紛が始まる展開も、前作で描かれた構図と重なって見えてしまい、展開に新鮮さを感じることは難しかったです。
銃撃戦の描写についても、かつての北野作品にあったような独自のバイオレンス表現は控えめで、棒立ちでの撃ち合いや単調なアクションが続く構成になっていたように感じます。機関銃を手にして突入する場面もあったものの、『ソナチネ』などで見られたような鋭さや印象に残る間の使い方といった要素は少なく、アクション映画としての魅力を味わえる場面は限られていたように思いました。
大友が韓国の会長に恩義を感じて日本へ戻り、一連の抗争へと身を投じていく展開も、彼の内面や動機の部分があまり描かれていないため、なぜそこまでの行動に至るのかが見えてこず、ただ暴力を繰り返す人物としての印象が残ってしまいました。過去の因縁や信念が感じられる瞬間があれば、もっと深く人物に寄り添えたかもしれません。銃撃の場面も、単なる暴力の応酬に見えてしまい、心を動かされる要素は少なかったです。
花菱会が追い詰められていく過程もやや淡々としていて、西田敏行さんの動きにも緊張感が生まれず、せっかくの抗争の構図が盛り上がりに欠けてしまったように思います。東京の山王会のその後も中途半端な描かれ方で、かつての勢いを取り戻すような展開には至りませんでした。個人的には、岸部一徳さんがあまり活躍する場面がなかったのが惜しまれます。
全体として、暴力描写の衝撃や、組織の中での駆け引きの面白さといったものが抑え気味で、前作までにあった緊張感や興奮を味わうことが難しい構成になっていた印象です。過去作の余韻を大切にしたい気持ちもあり、あのタイミングでシリーズが完結していてもよかったのではないかと感じてしまう部分もありました。とはいえ、映像や美術には変わらぬ魅力があり、シリーズを追ってきた人にとっては一つの節目を見届ける作品にはなっていたと思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2017/10/08 シネマサンシャイン平和島 2018/06/28 Blu-ray
監督 | 北野武 |
---|---|
脚本 | 北野武 |
出演 | ビートたけし |
---|---|
西田敏行 | |
大森南朋 | |
ピエール瀧 | |
松重豊 | |
大杉漣 | |
塩見三省 | |
白竜 | |
名高達男 | |
光石研 | |
原田泰造 | |
池内博之 | |
津田寛治 | |
金田時男 | |
中村育二 | |
岸部一徳 |
コメント