●こんなお話
相変わらずみんなで殺し合いをする第3弾。
●感想
関東一帯に勢力を誇った山王会は、長年の抗争と内部の対立によって力を失い、かつての巨大組織とは違う姿に変わりつつあった。派閥同士が独立するように離れ、組織の輪郭は以前のような統一感を保てなくなっていた。そんな折、大友は韓国・済州島に身を寄せ、張グループの庇護を受けながら静かに暮らしていた。海沿いのリゾート施設の管理を手伝い、張の仕事の一部を任されながら、表に出過ぎないよう慎ましい生活を続けていた。
しかし、花菱会の幹部・花田が張の店を訪れ、従業員に暴力を振るう事件が起こる。張側は弁償を求め、大友が交渉役として席に着くが、花田は挑発的な態度を崩さず、話は平行線を辿ったまま決裂する。怒りを帯びた空気が一気に広がり、収まらない雰囲気のまま会合は終了する。その直後、花菱会側が張グループの部下を殺害し、済州島での小競り合いは日韓の組織を巻き込む火種へと変わっていく。
一方、日本の花菱会では会長・野村と副会長・西野の権力争いが深まり、内部では責任の押し付け合いが続き、まとまりのない状態になっていた。済州島での問題をどう処理するかを巡って会内の不満は膨らみ、大友と張グループはついに報復行動へと踏み出す。大友は日本へ戻り、花菱会の関係者を次々と狙うようになる。組織の要所が崩され、花菱会は東京と大阪の拠点を揺らされながら弱体化していく。
野村会長は西野の策謀により、大友の進攻にも耐えられなくなり、指導力を失っていく。西野は会長を追い落として花菱会は新体制へ。
大友は張会長の厚意に応えきれなかったことを悔い、すべての因縁を清算するために自ら命を絶っておしまい。
冒頭、大友が子分と何気ないやり取りを交わす場面から、シリーズの空気がそのまま凝縮されていたように感じました。赤文字のスタッフロールとともに黒塗りの車が夜の街を進んでいく導入は、映像だけで観客の気持ちを引き込む力があり、過去作を思い起こさせる格好良さが漂っていたと思います。韓国の繁華街を彩るネオンや看板の文字が混ざる風景も独特で、これまでのシリーズとは少し異なる空気を映し出していたと感じました。
物語の中心となるパワーゲームは、韓国でのトラブルから生まれる関西勢との衝突が軸となっていきます。前作までは激しい言葉のぶつかり合いに迫力がありましたが、今作ではその勢いが弱まった印象が残りました。役者陣の年齢的な要素もあるのかもしれませんが、怒号を交わす緊張感が薄れ、抑制の効いた会話が多く、やや静かなやり取りになっていたように思います。過去シリーズ特有のピリッとした応酬が少なく、その点に物足りなさを覚えました。
また、これまで群像劇の推進力を担っていた刑事の存在が描かれず、小日向文世さんのキャラクターが登場しなかったことで、ストーリー全体の流れもどこか直線的になっていた印象があります。組織同士が自然にぶつかり、自然に崩れていく構造が強くなり、駆け引きの妙味が薄まってしまった部分が惜しく感じられました。
前作で存在感を放った西田敏行さんと塩見三省さんのキャラクターも、今作では勢いを失ったように映り、時代の流れから取り残された印象がありました。新会長が登場してもすぐ内紛に入ってしまい、シリーズ既視感が強くなったことで、目新しさを感じる場面が少なくなっていたと思います。
銃撃戦の描写も、かつての北野映画に備わっていた間の使い方や独特の暴力描写は控えめで、棒立ちの撃ち合いが続く構成になっていた印象です。機関銃を手にした突入シーンもありましたが、映像としての鋭さを持つ場面は限られていたように感じました。
大友が張会長への恩義から動き出し、日本へ戻って抗争に踏み込んでいく過程も、彼の心の揺れや迷いがあまり描かれず、行動の背景が見えにくかった印象があります。人物への感情移入が深まりにくく、暴力が連続するだけに感じられる瞬間もありました。
花菱会が追い詰められる過程も淡々としていて、大きな転換点が訪れる場面に強い緊張感が生まれず、組織が崩壊していく過程が平坦に見えたところもありました。山王会のその後が中途半端に描かれる構成でもあり、かつての勢いを取り戻す展開は訪れません。岸部一徳さんの活躍が少なかったのも惜しく感じました。
シリーズとしての蓄積があるからこそ、今作の抑えられた描写には寂しさもありますが、それでも美術や画面作りには変わらない魅力があり、長く続いた物語の節目を静かに受け止める時間になったと思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2017/10/08 シネマサンシャイン平和島 2018/06/28 Blu-ray 2025/11/15 DVD
| 監督 | 北野武 |
|---|---|
| 脚本 | 北野武 |
| 出演 | ビートたけし |
|---|---|
| 西田敏行 | |
| 大森南朋 | |
| ピエール瀧 | |
| 松重豊 | |
| 大杉漣 | |
| 塩見三省 | |
| 白竜 | |
| 名高達男 | |
| 光石研 | |
| 原田泰造 | |
| 池内博之 | |
| 津田寛治 | |
| 金田時男 | |
| 中村育二 | |
| 岸部一徳 |



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