●こんなお話
ダメダメなCMディレクターが自分の会社のCMをCM祭で入賞させろと命令されて嫌々ながらドス黒い審査員たちの気持ちを変化させていく話。
●感想
広告代理店に勤める太田喜一郎が、上司の理不尽な指令を背負わされるところから始まる。彼は国際広告祭「サンタモニカ国際広告祭」に、日本代表の審査員として派遣されることに。しかし英語がまったく話せない彼の同行するのは、社内でも仕事の早さで知られる敏腕社員のひかり。二人は不安を抱えたままロサンゼルスへと向かう。
現地では、各国の審査員たちが自国のCMを推し合う熱気の中、日本の出品作はなかなか評価されず、喜一郎は孤立していく。英語が通じないまま誤解を重ね、それでも懸命に審査に参加するうちに、各国の裏で進む利権と駆け引きが浮かび上がる。そんな中で正直すぎる喜一郎の姿にひかりは少しずつ信頼を寄せていく。
日本からは彼の会社のCMとトヨタのCMが出品されており、どちらも一度は酷評されて落選する。しかし敗者復活の機会があることを知り、ひかりの提案によって日本のCMの評価が少しずつ高まっていく。最終的に喜一郎は自分の会社のCMではなく、トヨタのCMを推す判断を下す。公平であることを選んだその姿勢が、やがて審査員たちの心を動かしていく。
最終日、日本のCMが不正な票操作によって落選しかける。英語も満足に話せない喜一郎は、それでも身振り手振りで「美味しいものは美味しいと言いたい」と訴える。その不器用な情熱が審査員たちを動かし、再投票の結果、日本のCMはグランプリを受賞する。喜一郎は言葉を超えて信念を貫き、誰もが忘れかけていた広告の純粋さを呼び覚ますことになる。
序盤、理不尽な上司の命令に振り回されながらも、英語も話せないまま国際広告祭に向かう展開にはユーモアがありました。落ちこぼれ社員と、しっかり者のヒロインの対比も軽やかで、旅立ちのパートは小気味よく見られました。
ただ、物語の中心となる広告祭の審査会が、思っていたより静的で、少し間延びしている印象も受けました。主人公は「良いものを良いと言いたい」という信念を貫く人物ですが、そこに至るまでの過程に緊張感がもう少し欲しかったように思います。
審査員たちのやり取りや、英語をめぐるコミュニケーションのズレは面白い題材ですが、活かし方がやや平板で、せっかくの設定が活ききっていない部分も感じられました。ゲイの審査員とのやりとりや、審査員長のキャラクターの変化なども、もう少し掘り下げられれば物語に深みが出たかもしれません。
ヒロイン・ひかりの描写もやや淡く、主人公との関係性があまり変化していかないまま終盤に進んでいく点は惜しかったです。物語の途中で彼女が見せる行動やセリフがもう少し物語に影響していれば、彼女の存在意義がより印象的になったのではと思いました。
終盤、日本のCMがグランプリを受賞する展開自体は爽やかで、言葉を越えた情熱が国境を超えて通じ合う瞬間には心が温かくなりました。ただ、ピンチの描写や解決の流れが唐突で、もう少し積み上げがあれば余韻も変わったかもしれません。
とはいえ、広告という世界の中で「純粋な想い」がどこまで通じるのかを描いたテーマには誠実さがあり、100分間を通してその想いは確かに伝わってきました。主人公の泥臭さと真っ直ぐさは、見ているこちらの心に小さな灯をともすものがありました。
☆☆
鑑賞日: 2014/01/17 TOHOシネマズ南大沢 2025/10/16 U-NEXT
| 監督 | 永井聡 |
|---|---|
| 脚本 | 澤本嘉光 |
| 出演 | 妻夫木聡 |
|---|---|
| 北川景子 | |
| リリー・フランキー | |
| 鈴木京香 | |
| 豊川悦司 | |
| 荒川良々 | |
| 玉山鉄二 | |
| 玄里 | |
| 田中要次 | |
| 風間杜夫 | |
| でんでん |


