映画【湾生回家】感想(ネタバレ):湾生たちが語る記憶と再会の物語

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●こんなお話

 日本統治時代の50年間の台湾で生まれた日本人に取材したドキュメンタリー。 

●感想

 冒頭、「うさぎ追いしかの山…」のメロディーとともに、日本の唱歌【故郷】が流れる。そこからゆるやかに、かつ深く、台湾で生まれ育った日本人=湾生たちの記憶がひも解かれていく。画面には、今では高齢となった彼らの姿が映り、その一人ひとりのファミリーヒストリーが語られていく構成になっている。カメラは彼らの言葉に静かに寄り添い、過去の記憶と現在の思いを丹念にすくい取っていく。

 あるおじいさんは、かつて台湾で交流のあった友人たちの消息をたどっていく。会えると信じて訪れた家で、すでに故人となっていることを知らされて静かに涙を流す姿。あるいは、再会を果たして抱き合いながら涙をこぼす場面。どちらも決して芝居がかっていないのに、なぜだか強く胸を打つ。それぞれの出来事の背景が一気にこちらに流れ込んでくるようで、まったく知らない人たちなのに、自然と感情移入してしまうのです。このあたりにドキュメンタリーならではの説得力があり、見ているあいだじゅう、何度も目頭が熱くなりました。

 作品では、昭和初期の不況により生活の場を求めて台湾へと移り住んだ日本人たちの姿が描かれます。当時台湾は日本の統治下にあり、多くの移民たちが開墾に従事し、厳しい自然環境や風土と格闘しながら生きていたとのこと。その生活の様子や、現地の人々との関係が語られていく過程も、歴史のひとコマとして非常に興味深く拝見いたしました。

 戦争が終わったあと、日本へ引き揚げる人もいれば、さまざまな事情で台湾に残った人もいる。その中には、親と離れ離れになり、自分は捨てられたのだと思い込んでいた人もいました。彼らが成長し、自分のルーツを知るために日本を訪れ、母親の行方を追っていくくだりも胸を打つものがありました。その結末が語られる場面には、素朴な言葉ながら強い想いが込められており、とても印象的でした。

 また、日本統治下の台湾を語る際、インフラ整備や産業の発展など肯定的に捉える意見もあれば、軍による支配や霧社事件などの負の歴史を語る声もあります。映画はそれらを一方に偏ることなく、静かに並べるように紹介していたのが印象的でした。そうした背景がありながらも、湾生たちが再び台湾の地を訪れた際、現地の人々が温かく迎えてくれる様子には、時代を越えた人と人とのつながりを感じました。過去にさまざまな出来事があったとしても、今の自分たちが向き合い方を選べるのだと伝えてくれているようでもありました。

 当時の生活を描く回想シーンがアニメーションで表現されている点も、過去と現在の距離を滑らかにつなぐ演出として効果的に働いていたと思います。記憶は朧げで、断片的でもありますが、だからこそ絵によって補われた映像がどこか詩のようで、やわらかな印象を与えてくれました。

 自分自身は、正直なところ「故郷を思う気持ち」というものをこれまで強く感じたことがありませんでした。そのため、ここまで深く故郷への想いを抱き続ける人たちの姿には、少し驚きもあり、そしてどこか羨ましくなるような感覚も抱きました。自分のルーツを知り、それを大切にする姿勢に心を動かされたように思います。

 そして何より、この映画が台湾の方によって作られているということもまた嬉しく感じられました。かつて歴史の中で複雑な関係を持っていた日本と台湾。そのなかで生まれた湾生たちの物語を、温かいまなざしで描こうとするその気持ちが、画面からにじみ出ていたように思います。

☆☆☆☆☆

鑑賞日: 2017/04/17 キネカ大森

監督ホァン・ミンチェン 
エグゼクティブプロデューサーチェン・シュエンルー 
プロデューサーファン・ジェンヨウ 
内藤諭 
出演冨永勝 
家倉多恵子 
清水一也 
松本洽盛 
竹中信子 
片山清子 

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