映画【神々の山嶺】感想(ネタバレ):伝説の登山家と写真家が紡ぐ心の軌跡

THE SUMMIT OF THE GODS
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●こんなお話

 エヴェレストに挑戦する登山家を追いかけるジャーナリストの話。

●感想

 ある夜、バーで一人静かに酒を飲んでいた風景写真家の主人公は、見知らぬ男から一本の話を持ちかけられる。男が差し出したのは、かつて伝説とまで呼ばれた登山家が使っていたというカメラだった。見た目は古びているが、どこか惹かれるような存在感を放っていた。興味は惹かれるものの、その場では購入を断った主人公。しかし、バーを出た直後、目の前で奇妙な出来事が起きる。さきほどの男が別の男に脅され、あのカメラを奪われてしまう。その瞬間、主人公は何かに導かれるようにして動き出す。その奪った男こそ、かつて消息を絶ったはずの伝説の日本人登山家だった。

 かくして主人公は、興味本位からその登山家の足跡を追い始めることになる。過去に彼と関わりのあった人々を訪ね歩き、登山家の人となりを少しずつ知っていく中で浮かび上がってきたのは、必ずしも英雄的なイメージだけではなかった。彼は山を愛し、誰よりも登山に真摯だったが、その分だけ、他者との協調にはあまり重きを置かなかった。集団行動を嫌い、単独行動を貫く姿勢に、周囲との摩擦も多かったようだ。ある時は、若い登山家と二人で山に挑んだが、事故によって若者が助かる見込みを失った際、自らロープを切るという決断を下していた。その行為が自己犠牲なのか、それとも冷徹な現実主義だったのか、語る人によって捉え方が異なっていたのが印象的でした。

 物語が進むにつれ、主人公は登山家がエベレスト登頂を計画していることに確信を深めていきます。いよいよ自らも彼を探し出し、記録のために同行させてほしいと頼み込む。登山家は多くを語らずとも、その目の奥に揺るぎない覚悟をたたえていました。主人公もまた、その視線に押されるようにして、エベレストの頂を目指すことになります。

 登山の過程は過酷そのものでした。雪と氷に閉ざされた世界、凍てつく風と低酸素の空気。命を削るような一歩一歩が、観る者にも緊張感を伝えてきます。ギリギリの体力でついていく主人公でしたが、ある場面でバランスを崩し、危機に陥ったところを登山家に救われます。そして、主人公はベースキャンプに残り、登山家はただ一人で頂上を目指して歩を進めていきます。

 その後、予定された時間になっても登山家は戻ってこない。吹雪に包まれたキャンプ地で、主人公はただひたすらに彼の帰りを待ち続けます。生きて戻ってきてくれると信じたい気持ちと、現実が迫ってくる焦燥の中で、次第に時間が過ぎていきます。そして、あらかじめ託されていたカメラと手紙を前に、彼の行方を追いきれなかった自分と、残された想いに向き合う姿が描かれます。

 この作品は、山岳ドラマとしての緊張感もさることながら、アニメーションならではの繊細な表現が印象的でした。雪山の壮厳な風景はもちろんのこと、静かな日本の田舎町や、日常生活の描写にも味わいがありました。山を登るという行為の孤独や、死と隣り合わせの重み、そしてそこに宿る人間の美しさと愚かさを、丁寧に描いた一本だったと思います。登山というテーマを通して、人がなぜ山を目指すのか、その問いに対する一つの答えが、この物語には込められていたように感じました。

☆☆☆☆

鑑賞日:2023/01/11 Amazonプライム・ビデオ

監督パトリック・インバート 
脚本マガリ・ポーゾル 
パトリック・インバート 
ジャン=シャルル・オストレロ 
原作夢枕獏
谷口ジロー
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