●こんなお話
一発のミサイルが暴く、国家システムの脆さを映し出すリアルな危機の話
●感想
アメリカ合衆国。政権中枢がざわめきに包まれる。ある日、早期警戒システムが、所属不明のミサイル発射を検知する。発射元も国家も特定できない。その一報が大統領執務室に届いた瞬間、ホワイトハウスの空気は一変する。
物語は、大統領を中心に、国家安全保障顧問、国防長官、陸軍の指揮官、情報分析官らが、それぞれの立場で決断を迫られる姿を描いていく。誰が撃ったのか、どう対処すべきか。答えのない問いを前に、政府中枢の人間たちがシチュエーション・ルームで議論を重ねる。ミサイル着弾まで残された時間は、わずか数十分。誤情報か、攻撃か。先制するのか、迎撃に徹するのか。
情報分析官は、発射元を特定しようと奔走するが、標的が自分の家族の暮らす地域である可能性を知って動揺する。国防長官は娘がシカゴに住んでいることを思い出し、避難を試みようとするも、国家の命令に縛られて身動きが取れない。命令と感情のはざまで揺れる人間の姿が、静かに胸を打ちます。
一方で、前線では迎撃ミッションが始まっていた。陸上配備のミサイル、衛星通信、戦略司令部、そして現場の兵士たち――すべてが「失敗すれば終わり」という極限の緊張に晒されている。恋人との電話で口論をしていた若い将校が、次の瞬間に発令される迎撃命令に従う。その一瞬の切り替えが、この物語に確かな現実味を与えていると思いました。
ロシアの外相との緊迫した通話、報復を主張する将軍、対話を求める情報分析官。意見が割れる中、大統領は静かに最終決断を下さなければならない。核シェルターに避難した人々の頭上では、夜空を切り裂くようにミサイルが飛翔していて物語はそこでおしまい。
作品は、日常から一瞬で戦時体制に変わるという緊迫感が素晴らしく、観ていて息を詰めてしまうほどの張り詰めた空気がありました。静かな会話の裏に潜む焦燥、決断に滲む人間臭さが丁寧に描かれていて、派手な爆発シーンがなくとも十分に心を掴まれます。音楽も見事で、抑えた旋律が緊張を際立たせ、場面ごとの静寂を美しく包んでいました。
結末が明示されない構成には少し物足りなさを感じたものの、それもまた“現実では答えが出ない恐怖”を体感させる演出として受け止められました。核攻撃という最悪の事態を想定しながらも、そこに描かれるのは兵器ではなく、決断に苦しむ人間の姿。シミュレーション映画として非常に完成度が高く、観終えた後も長く余韻が残りました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2025/11/09 NETFLIX
| 監督 | キャスリン・ビグロー |
|---|---|
| 脚本 | ノア・オッペンハイム |
| 出演 | イドリス・エルバ |
|---|---|
| レベッカ・ファーガソン | |
| ガブリエル・バッソ | |
| ジェイソン・クラーク | |
| グレタ・リー | |
| ジャレッド・ハリス | |
| トレイシー・レッツ | |
| アンソニー・ラモス | |
| モーゼス・イングラム | |
| ジョナ・ハウアー=キング |

