●こんなお話
かつての所属部隊で隊長による部下射殺事件があったことを知って真相究明する奥崎謙三の話。
詳細ネタバレあらすじ
1982年、ニューギニア戦線から生還した元日本兵・奥崎謙三は、兵庫県神戸市で妻・シズミとバッテリー店を営みながら、自らを「神軍平等兵」と名乗り、日本軍や昭和天皇の戦争責任を追及する活動を続けていた。かつて昭和天皇に向けてパチンコ玉を発射した事件で世間の注目を集めた奥崎は、「戦争犯罪の責任は現場の上官だけでなく、その頂点にもある」という信念を持ち、「神軍」と書かれた旗を掲げた車で全国を巡っている。
奥崎が追い始めたのは、自身も所属していた独立工兵第三十六連隊で起きた不可解な銃殺事件だった。終戦から23日後の1945年9月18日、二人の兵士が「敵前逃亡」を理由に処刑されたという記録が残されていたが、戦争が終わったあとに敵前逃亡で処刑されることに強い疑問を抱き、真相究明へ乗り出す。
奥崎は、当時の元上官や元兵士を一人ずつ訪ね歩き始める。しかし、元将校たちは「命令だった」「昔のことで覚えていない」「今さら話すことではない」と責任を避け続ける。
奥崎は納得せず、長時間にわたって質問を浴びせ、曖昧な返答には怒鳴り声を上げる。証言を拒み続ける相手には平手打ちや殴打を加える場面もあり、周囲が制止しても追及をやめない。その一部始終を、原一男監督のカメラは一切遮ることなく記録していく。
複数の元兵士から証言を集めるうち、「敵前逃亡だった」という説明とは異なる話が次々と浮かび上がる。ある元兵士は「終戦後に敵前逃亡などあり得ない」と語り、別の人物は「処刑には別の理由があった」と証言する。
さらに調査が進むと、当時の部隊は補給が完全に途絶え、兵士たちは極限の飢餓状態に置かれていたことが判明する。そのなかで、生き延びるために現地住民や捕虜を殺害し、人肉を食べていたのではないかと話が出てくる。奥崎は、処刑された二人の兵士は人肉食を拒否した、あるいはその事実を知っていたために口封じとして殺害されたのではないかという仮説へたどり着く。
新たな証言を得るたびに奥崎は別の元兵士を訪ね、「誰が命令したのか」「誰が銃を撃ったのか」「敵前逃亡という説明は本当なのか」と矛盾を一つずつ突き付けていく。追及を受けた元兵士たちは、「飢えの中では正常な判断ができなかった」「軍の命令には逆らえなかった」と当時の状況を語り始める。
しかし証言は完全には一致しない。「人肉食はあった」と認める者もいれば、「自分は見ていない」と否定する者もおり、証言は食い違い続ける。そのため、人肉食事件の詳細や実際に誰が関わっていたのかについては、劇中でも決定的な証拠は示されず、未確認の部分として残される。
遺族がついていくが、途中でいなくなり妻のシズミが遺族のふりをして黙ってついていく。最終的に元上官の家で息子に発砲して収監され、妻シズミが刑務所で面会しているところでおしまい。
●感想
冒頭から強烈でした。知人の結婚式で仲人を務めた奥崎謙三が、祝辞の場で自ら前科者であることを堂々と語り始め、会場全体が凍り付いていく様子には思わず目を奪われます。開始数分で「この人物は常識では測れない」と理解させられ、その後の120分間は奥崎謙三という唯一無二の存在感に圧倒され続けました。
劇中では、自らが昭和天皇にパチンコ玉を撃った出来事を何度も持ち出し、相手を威圧しながら話を進める姿が描かれます。あまりにも突き抜けた言動の連続で、序盤は恐ろしさよりもどこかコミカルに映る場面もあり、独特の空気に引き込まれました。
一方で、射殺事件に関わった元将校や元兵士たちも一筋縄ではいきません。「覚えていない」「命令だった」と責任を避け続け、核心にはなかなか触れようとしません。そんな彼らを奥崎が執拗に追及し、ときには暴力まで振るいながら説明責任を求める場面は強烈な緊張感に包まれています。
しかし、取材が進むにつれて証言の内容は次第に変化し、飢餓の中で兵士たちが経験した壮絶な現実や、終戦後も続いていた軍隊の論理が少しずつ語られていきます。当初は奇抜な人物を追った作品のように見えていたものが、いつしか戦争そのものの異常性を浮かび上がらせるドキュメンタリーへと姿を変えていく構成は見事でした。
そして何より驚かされたのは、原一男監督が奥崎謙三という人物を見つけ出し、その行動を真正面から記録し続けたことです。普通であれば撮影をためらうような瞬間までカメラを回し続けたことで、演出では決して生み出せない現実の迫力が映像に刻み込まれています。
奥崎謙三という破天荒な人物の強烈な個性と、彼が執念深く追い求めた戦争の真実、そして原一男監督の徹底した記録精神が重なり合うことで、本作は他の戦争ドキュメンタリーにはない圧倒的な熱量を持った一本になっています。観終えたあとも数々の証言や出来事が頭から離れず、戦争とは何だったのか、真実を語り継ぐことの意味について考え続けさせられる作品でした。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2017/11/08 DVD 2026/07/31 U-NEXT
| 監督 | 原一男 |
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| 構成 | 鍋島惇 |
| 企画 | 今村昌平 |
| 出演 | 奥崎謙三 |
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