●こんなお話
ある村で記憶を消す機械を持った占い師が現れて村を支配していく話。
●感想
清朝が滅び、中華民国が成立して間もない時代。中国の山奥にある閉ざされた小さな村では、鉄道が通るという噂が広まり、村人たちは宴を開いて浮き立っている。だがその裏では、村を影から支配する大旦那と呼ばれる男が暗躍している。大旦那はある村人を脅し、伝書鳩を持たせて村へ帰らせ、自らの命令を伝えさせるなど、村で金もうけをたくらんでいる様子。
村では、若い女性・秋蓉が、出征したまま戻らない夫を待ち続けている。夫の帰りを信じる彼女をよそに、村には胡散臭い導師が現れる。導師は奇妙な装置を携え、頭にかぶせれば嫌な記憶を消し去ることができると説明する。半信半疑だった村人たちも、実際に装置を試すと、長年抱えてきた恨みや嫉妬、対立の記憶が消え、途端に穏やかな表情へと変わっていく。
過去のいざこざを忘れた村人たちは、争いのない平和な日々を送り始める。かつて対立していた者同士も笑い合い、複雑だった恋愛関係もわだかまりなく整理され、村はまるで理想郷のような空気に包まれる。導師は装置を使い続けることで村人たちの信頼を得て、やがて村長の座に就き、実質的な支配者となる。
秋蓉もまた導師によって記憶を消され、本来待ち続けていた夫の存在を忘れ、導師の妻として暮らすようになる。しかし秋蓉は偶然、導師の装置の内部を覗き込み、そこに蓄積された村人たちの過去の記憶の映像を目にする。断片的に蘇る自分自身の記憶に違和感を抱き、失われた真実を取り戻そうとする。
その頃、大旦那の命令を受けた刺客たちが村へ押し寄せる。彼らは郵便配達人の姿を装いながら、冷酷に村人を襲撃する集団である。混乱の中、大旦那は装置を利用し、ある村人に武術の達人だった過去の記憶を植え付ける。するとその村人は圧倒的な武術の腕前を発揮し、刺客たちと激しい戦いを繰り広げる。粉が舞い上がる中での戦闘によって刺客たちは撃退される。
やがて秋蓉は、自らの意志で装置を使う決断をする。彼女は村人たちの記憶を操作し、自分が理想とする秩序ある村を築き上げる。秋蓉は新たな村長となり、記憶を管理する立場へと変わる。こうして村は再び安定を取り戻すが、その平穏は記憶の改変によって成り立つもので、秋蓉が村の中心に立つ姿を映し出しておしまい。
アジアンコメディ特有な誇張された芝居や大きなリアクション、そこに被さる音楽の勢いは、好みが分かれる部分かもしれません。ただ、その過剰さこそが本作の独特なリズムを生み出しており、強い印象を残します。
記憶を消して人々を支配していくという筋立ては本来なら重くなりがちな題材ですが、作品はあくまで喜劇のトーンを保ちながら進みます。それでも、笑いの裏側にある支配の構造が次第に浮き彫りになり、気づけば背筋が冷える感覚を覚えました。この軽やかさと不穏さの同居が実に巧みです。
アクション場面も見どころの一つで、片栗粉が舞い上がる空間での格闘は視覚的に美しく、白い粉塵の中で繰り広げられる攻防が幻想的な画を作り出します。コミカルでありながらも身体性の高い立ち回りに目を奪われました。
そして何より強烈なのが、郵便配達人に扮した刺客たちです。異様なハイテンションのまま容赦なく人を襲う姿は強烈で、登場するたびに画面の空気を一変させます。残虐さとコミカルさが混在する存在感は抜群で、エンドロールでの謎めいたダンスシーンまで思わず見入ってしまいました。
奇抜な設定とエネルギッシュな演出を通して、記憶と支配というテーマを娯楽性豊かに描き出した一本として、強く印象に残る作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2026/03/15 DVD
| 監督 | チェン・ユーシュン |
|---|
| 出演 | ジョセフ・チャン |
|---|---|
| チェン・イェンツォ | |
| スー・チー | |
| エリック・ツァン | |
| ワン・チエンユエン | |
| トニー・ヤン |

