●こんなお話
高校生たちがいじめ問題とか盗作問題とか悩みにぶち当たる話。
●感想
演劇的な語り口で幕を開ける本作は、序盤からどこか芝居の舞台を観ているような印象を受けました。物語の流れは一応存在しているのだが、その合間にはモノローグや詩のような抽象的な映像が差し込まれ、現実と幻想の境界が曖昧なまま話が進行していく。今、誰がどこで何をしているのか、そうした基本的な把握さえ、観る側に委ねられているような構成で、すんなりと物語に入り込むには一定の集中力が求められた。
主人公の1人は、自身が書いていた小説を教師に盗まれたという過去を持ち、そこから生まれる怒りや憎しみに突き動かされるように復讐の感情を燃やしていく。一方で、もう1人の主人公は、いじめのトラウマや剣道の過去、さらには足を引きずる理由など、複数の背景が同時進行で描かれ、それぞれが断片的に語られる。その合間には静止した時間のようなカットや、スローモーションを多用した詩的な映像が挿入され、映像的な美しさと引き換えに物語の芯が見えにくくなっていた印象を受けました。
やがて2人は、それぞれ老人介護施設や難病の子どもの施設で働くようになる。物語上でのつながりはやや唐突ではありましたが、その中で難病の子どもと出会い、彼の親を探すという行動へとつながっていく。そこで描かれる子どもとの関係性は微笑ましく、当初の暗さを引きずっていた主人公が徐々に柔らかくなっていく様子には、ある種の成長も感じられました。ただ、その変化のテンポがやや急で、コンドームの使い方に悩むシーンなどを境にまるで別人格になったようなギャップに、戸惑いも残ったり。
物語が終盤に差しかかると、それまでの断片がひとつにつながる展開が用意されている。実はこの人物とあの人物が意外な形で関わっていた、という種明かしもされる。ただ、そうした関係性の明かし方に「なるほど」と唸るような伏線回収の快感があるわけではなく、むしろ「どうしてそんな嘘をついていたのか?」といった新たな疑問が浮かび、かえって没入を妨げる要因にもなっていたように感じます。途中で転校してきた印象的な生徒も、退場したかと思えばクライマックスの橋の上で再登場。意味深な行動をとるものの、それが何を表していたのかが読み取りきれず、観終わった後にも引っかかりとして残ります。
終盤では、物語上で重要な役割を担っていたはずの稲垣吾郎さん演じるキャラクターが酷い目に遭うものの、それを掘り下げることなく、主人公たちは夕日を背景に「いい関係になれた」といった調子で涙を流すシーンが用意されていた。この場面が作品のクライマックスにあたるのだが、どうにも稲垣さんのその後が気になってしまい、感情が追いつかず、素直に感動できないままエンドロールを迎えることに。
全体を通して、ストーリーそのものよりも作り手の作家性が前面に出ていた印象を強く受けた作品でした。登場人物たちの関係性やセリフの間合い、抽象的な演出の連なりが、ある意味では監督あるいは原作者の「読み取ってください」というスタンスを感じさせる。観客側に委ねられた余白が多く、そこを楽しめるかどうかが評価を大きく分けるように思われました。すべてを解釈しようと構えずに、感覚的に作品と向き合うほうが、豊かな鑑賞体験になるのかもしれないです。
☆☆
鑑賞日: 2016/10/10 チネチッタ川崎
監督 | 三島有紀子 |
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脚本 | 松井香奈 |
三島有紀子 | |
原作 | 湊かなえ |
出演 | 本田翼 |
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山本美月 | |
真剣佑 | |
児嶋一哉 | |
菅原大吉 | |
川上麻衣子 | |
銀粉蝶 | |
白川和子 | |
稲垣吾郎 |
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