映画【チェリーボーイズ】感想(ネタバレ):虚勢と素直の狭間で揺れる若者たち

Cherry Boys
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●こんなお話

 童貞のまま大人になった男たちが、道程を卒業したいと悶々とする話。

●感想

 地方都市の一角、古びた商店街の片隅で酒屋を営む父が倒れ、東京でインディーズバンドを続けていた国森信一は、4年ぶりに実家へと帰る。

 かつての仲間であり幼馴染の吉村達也、高杉誠とも再会する。三人はいずれも二十五歳、子供の頃と何も変わらないまま、それぞれが小さな行き詰まりの中にいた。彼らは恋愛にも仕事にも満たされない現状を笑い飛ばしながら、どこかで自分を誤魔化している。

 信一は東京での生活を大げさに語り、地元での居心地の悪さを隠そうとする。だが、彼の「成功」は見栄の上に成り立っており、口にすればするほど苦しさを覚えている。達也も高杉もそれぞれ職場や家族との関係に小さな不満を抱え、何かを変えたい気持ちだけが燻っている。

 ある夜、彼らは冗談半分に「そろそろ童貞を卒業しよう」と言い出す。軽薄な言葉の裏に、誰にも言えない焦燥が潜んでいた。話題にのぼったのは地元で噂になっている女性、釈笛子。その女性は、歯科医院で働きながら、どこか孤独を纏った存在だ。噂では「男に身体を売っている」と囁かれているが、実際の彼女は自分の居場所を探しているらしい。

 信一は父の酒屋を手伝ううちに笛子と再会する。何気ない会話を重ねるうち、彼女への興味は次第に強い執着へと変わっていく。仲間たちと立てた“計画”はやがて暴力の色を帯び、三人は自分たちが越えてはいけない一線を踏み越えようとしてしまう。

 河原での準備、スタンガンやスプレーの試行、そして地元の厄介者・五木との出会い。全てが滑稽でありながら、どこか現実の痛みを孕んでいる。笛子は五木を気にかけており、またプーチンと呼ばれる別の男からの誘いを断るなど、彼女自身もまたこの街で生きるために葛藤している様子。

 そして、計画は実行に移される。黒い車、目出し帽、震える手。だが笛子は彼らの愚かな試みを一瞬で見抜く。反撃によって正体を暴かれた三人は謝罪。その後、笛子の許しのもとで彼は一度だけ触れ合うが、途中で動きを止める。初めての体験は「達成」ではなく「戸惑い」として終わる。

 最後に信一は、子供をからかう中学生に声をかけておしまい。

 観ていて、青春映画という言葉では収まりきらない不安定さを感じました。田舎という閉じた世界の中で、若者たちは欲望と現実の狭間でもがきます。その姿は時に滑稽で、時に切実なのは感じました。童貞を卒業するという目標が物語の中心に置かれているものの、実際にはそれ以上の「生きるための不器用な試行錯誤」が描かれているように思いました。

 登場人物たちは皆、他者との接し方を知らないまま大人になってしまった印象で。彼らの焦りや不器用さに共感できる部分もあり、観終えたあと、静かに胸の奥に残るものがありました。青空と雨の境目を走り抜けるバイクの音や、悶々と過ごすだけの虚無の時間。その中に、少しだけ希望のようなものが滲んでいたと感じます。

☆☆

鑑賞日:2025/10/25 U-NEXT

監督西海謙一郎 
脚本松居大悟 
原作古泉智浩
出演林遣都 
栁俊太郎 
前野朋哉 
池田エライザ 
石垣佑磨 
岡山天音 
般若 
山谷花純 
松本メイ 
岸明日香 
馬場良馬 
吹越満 
立石涼子 
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