映画【稲村ジェーン】感想(ネタバレ):稲村ヶ崎を駆ける若者たちの漂う夏の物語

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●こんなお話

 伝説の大波を待つサーファーたちの話。

●感想

 1965年の湘南・稲村ヶ崎。骨董屋で店番をしながら、気ままにサーフィンを楽しむ若者ヒロシは、店主から託された骨董の壺をめぐる騒動に巻き込まれてしまう。壺を横流しした疑いをかけられているラテンバンドのリーダー・マサシと共に、彼らを追ってくるチンピラのカッチャンから逃れるため、小さなミゼットに乗り込み鴨川方面へと逃避行に出るのだった。

 道中で立ち寄った横須賀の歓楽街では、どこか奔放で衝動的な魅力を持つ風俗嬢・波子と出会い、勢いのまま彼女を車に乗せて稲村ヶ崎へ連れ帰ることになる。海の匂いが漂う町で、ヒロシ、マサシ、カッチャンの三人は、波子がもたらす予測のつかない空気に揺さぶられ、これまでになかった奇妙な一体感を抱き始めていく。波子の自由奔放な振る舞いに翻弄されながらも、三人の距離は自然と変化していき、それぞれが自分自身の奥に沈んでいた感情と向き合うようになっていく。

 その後、カッチャンは大阪へ向かうと言い残して姿を消すが、時間が経つと何事もなかったかのように戻ってくる。だが再び伊勢佐木町の揉め事に巻き込まれ、今度は連れ去られてしまい、ヒロシとマサシ、そして波子はどうすることもできない無力さを抱えながらも、彼の帰りを案じるようになる。

 季節は夏の終わりへと向かい、台風が近づく中で、語り継がれてきた“伝説の大波ジェーン”が再び現れるかもしれないという期待が高まっていく。そんな時、ヒロシは骨董屋の物置で巨大なロングボードを見つける。それはかつて“ジェーン”に乗ったサーファーの板だという噂を持つ特別なボードで、ヒロシは波子と共にそれをミゼットに積み込み、嵐の山道を走り抜けていく。

 闇に包まれた山中では、稲光と暴風の中で竜が姿を現したかのような幻想的なイメージが重なり、二人はボードの上で踊るように寄り添い、嵐の夜にしか生まれない恍惚の時間を共有する。

 そして台風が過ぎ去った翌朝、世界は嘘のように静まり返る。あれほど騒がしかった夏は日常へと溶け込み、伝説の波を夢見て過ごした一夜の高揚だけが、ヒロシたちの胸に淡く刻まれる。青春の光と影が入り交じったその記憶だけが、夏の名残として静かに残されるのだった。でおしまい。


 登場人物たちの目的がどこにあるのかが最後まで掴みづらく、物語としての輪郭が見えにくいまま進んでいく印象がありました。そのため、この旅が何を目指しているのか、自分の中で位置づけるのが難しく、物語へ深く入り込むのがやや難しかったです。

 伝説の波を待ち続けていたサーファーが、いざその波が来た瞬間に乗ることを拒むという展開も独特で、ヒロシ自身はほとんどサーフィンをしないまま物語が進んでいくため、サーフィン映画としての軸が掴みにくかったようにも感じました。

 また、ヒロシの帰郷、チンピラに追われる友人、気ままなヒロインの登場と、出来事が順番に並んでいくものの、会話が淡々としていて、物語としての大きなうねりが弱く感じられる部分もありました。

 伝説の波“稲村ジェーン”の登場もなく、サーフィンの躍動感や当時の若者文化の雰囲気よりも、どこかバブル時代の空気が漂っているように見えたのは興味深いところです。

 とはいえ、『真夏の果実』や『希望の轍』が流れる瞬間の映像は圧倒的に魅力があり、音楽と映像の組み合わせによって感情が一気に高まるような感覚もありました。物語としてのまとまりとは別の部分で、映像作品としての美しさが確かに息づいているように思います。

鑑賞日:2011/06/07 LD 2025/11/16 U-NEXT

監督桑田佳祐 
脚本康珍化 
出演加勢大周 
金山一彦 
的場浩司 
清水美砂 
尾美としのり 
古本新之輔 
泉谷しげる 
TOMMY SNYDER 
PANTA 
伊武雅刀 
下元史朗 
伊佐山ひろ子 
説楽りさ子 
原由子 
小泉今日子 
伊東四朗 
草刈正雄 
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