●こんなお話
日中戦争の戦場でチンピラヤクザが大暴れする話。
●感想
冒頭、主人公である高倉健さん演じる兵士が颯爽と馬に乗って登場するシーンから、この映画が一筋縄ではいかないことが分かります。軍隊への配属シーンとしてはかなり異例で、「こんな登場ありなのか」と思わず笑ってしまうような豪快さ。ですが、その非現実的とも言える演出が、この作品がただの戦争映画ではなく、あくまで娯楽作品として作られていることを象徴しているようにも感じられます。
中盤には、馬車で八路軍に追われるチェイスシーンが繰り広げられ、まるで西部劇の古典『駅馬車』を思わせるアクションが展開されます。日本軍と中国共産党軍との戦いという歴史背景を持ちながらも、あえてそこにシリアスさや重々しさを求めすぎず、どこかスカッとしたエンタメのテンポ感で物語が進んでいくのがこの映画の大きな特徴でした。
主人公は、新兵をいびる古参兵たちに対し、筋の通った正義感で立ち向かう姿勢を見せ、いきなり刺青を見せながら「おひかえなすって」と口上を始めてしまうという、まるで任侠映画のような展開にもなっていきます。そのインパクトと説得力は、まさに高倉健さんならでは。静かで寡黙な役柄が多い彼の中でも、こうした熱さを押し出すキャラクターは珍しく、観ていてワクワクさせられました。
その主人公は慰安所にいる女性たちから人気を集めていきますが、特にナンバーワンとされる慰安婦に想いを寄せる上官が彼に嫉妬し、敵意を剥き出しにする構図が描かれます。この恋愛とも呼べないような三角関係を通して、軍隊という閉じられた世界の中に渦巻く男たちの感情や嫉妬、権力構造が見えてくるのも面白いところです。
一方で、別の上官は武闘派のヤクザを尊敬し、まるで任侠映画のような義理人情に生きるスタイルに傾倒していくなど、キャラクターの造形がいちいち濃く、それぞれの言動がどこか誇張されていて、まさに石井輝男監督らしい世界観が全開です。
やがて物語は前線へと移り、八路軍に包囲される緊張感ある戦闘へと展開していきます。しかし、そこでさえも本作は「悲劇」や「戦争の惨さ」に引きずられることなく、あくまで登場人物たちが前向きに、時に滑稽に、命をかけて動いている姿を娯楽として描いていきます。
慰安婦の描かれ方についても、当時の価値観を反映しているとはいえ、彼女たちが非常に明るく、たくましく描かれている点は、現代の目から見ると賛否分かれる部分かもしれません。しかし、それも含めて、「娯楽映画」としての立ち位置を徹底し、観る者を90分間飽きさせないように練られた作品構成には感心させられます。
全体を通して、キャストたちが本当に楽しんで演じているように感じられ、その空気が画面を通して伝わってくるようでした。戦争という背景にありながら、ここまでエンタメとして割り切って突き抜けている映画は珍しく、石井輝男監督ならではの大胆さと職人芸のバランスが光る一作でした。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2015/10/16 DVD
監督 | 石井輝男 |
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脚本 | 石井輝男 |
出演 | 高倉健 |
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杉浦直樹 | |
砂塚秀夫 | |
大前均 | |
津川雅彦 | |
春風亭柳朝 | |
小川守 | |
植田貞光 | |
安部徹 | |
大東良 | |
朝丘雪路 |