映画【スオミの話をしよう】感想(ネタバレ):男たちが語る愛と幻影の物語

Suomi no Hanashi wo Shiyou
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●こんなお話

 男たちの“思い込み”が暴かれていく、皮肉でユーモラスな話

●感想

 詩人・寒川と妻のスオミ。ある朝、妻の姿はどこにもなかった。

 そこに現れるのは、スオミの元夫であり刑事の草野だった。かつての恋人を捜すというより、仕事としての冷たい目線で「通報すべきだ」と言う草野に、寒川は「騒ぐな」とだけ答える。

 屋敷には、スオミを知るという男たちが集まってくる。庭師の魚山、YouTuberの十勝左衛門、ベテラン刑事の宇賀神、若い刑事補の小磯。それぞれが彼女との過去を語るうち、次第に奇妙な事実が浮かび上がる。
 誰もが同じ“スオミ”を語っていない。ある者にとってはツインテールの快活な少女、ある者にとっては控えめで献身的な妻、また別の男には異国語で囁く妖艶な美女。

 集まった男たちは次第に競い合うようにスオミへの想いを語っていく。草野は冷静に内通者の存在を疑う。

 やがて男たちは身代金三億円を二つのバッグに分け、セスナで受け渡しを試みる。しかし計画は失敗に終わる。草野の推理で浮かび上がったのは、屋敷の世話係・乙骨の名だった。スオミは寒川を騙し、金を奪い、フィンランドへ逃亡する計画を立てていた。

 そして現れるもう一人の女、スオミの同級生・薊。彼女もまた協力者であり、二人は男たちそれぞれの“理想の妻像”を演じ分けてきたことを明かす。それぞれに「理想の妻像」を演じてきて、「自分自身」を殺して“誰かに合わせる”生き方をしていた。スオミは誰にも振り向かず、男たちを残して旅立っておしまい。

 物語は、三谷幸喜作品らしいセリフの軽妙さとリズムで進みます。舞台劇を思わせる構成で、屋敷という限られた空間の中に、笑いと緊張と皮肉が混じり合っていく様子が見事でした。逆探知装置の混乱や、ヘリコプターの騒動といったドタバタもよく練られていて、テンポの良い笑いに包まれた時間でした。

 ただ、スオミがなぜここまで複雑な誘拐劇を仕組んだのか、その動機は最後まで掴みきれませんでした。けれども、曖昧なままに残される余白こそがこの作品の魅力であり、観客それぞれの“スオミ像”を浮かび上がらせる仕掛けでもあるように感じました。見終えたあとに何が残るかと問われると、言葉にしづらい空虚さが胸に広がりますが、その空白さえも含めて「三谷幸喜の舞台的映画」を味わう時間だったと感じます。

☆☆☆

鑑賞日:2025/11/07 NETFLIX

監督三谷幸喜 
脚本三谷幸喜 
出演長澤まさみ 
西島秀俊 
松坂桃李 
瀬戸康史 
遠藤憲一 
小林隆 
坂東彌十郎 
戸塚純貴 
阿南健治 
梶原善 
宮澤エマ 
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