映画【椿三十郎(1962)】感想(ネタバレ):笑いと緊張が交差する痛快時代劇

Sanjuro
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●こんなお話

 ある藩のお家騒動に巻き込まれた? 首を突っ込んだ三十郎。若手藩士たちと藩を牛耳る悪い家老たちとの戦いを三十郎の知恵と知略と刀で乗り越えていく話。

●感想

 若手藩士たちの頼りなさと、その一方で侍らしさにこだわらず、飄々とした佇まいで本音とユーモアを大切に生きる三十郎。この対比がとてもおもしろく描かれていて、物語にすっと引き込まれました。正義感を剥き出しにするでもなく、かといって諦めに染まることもなく、軽やかに人助けをしてしまう三十郎の姿に、不思議な魅力を感じてしまいます。

 そして何といっても、敵役・室戸半兵衛の存在感が抜群です。冷静で鋭く、まさに一筋縄ではいかない強者という雰囲気が全編にわたって漂っていて、出てくるだけで画面が締まるのを感じました。三十郎との対話にも含みが多く、互いの腹を読み合う場面は非常にスリリングで、見ている側にも緊張感が伝わってくるようでした。

 物語は社殿での密会から始まり、たまたまそこを通りかかった三十郎が、若侍たちの相談事を耳にしてしまいます。そこからあっという間に状況を把握し、巻き込まれながらも彼らを救う立場へと動いていく導入が見事で、観ていてワクワクさせられました。しかもその中で、敵役を登場させ、人間関係や対立構図をコンパクトに整理して説明してしまう構成が本当に巧みです。

 奥方を助け出すために敵の屋敷へ忍び込むくだりも、重々しさはなく、どこかユーモアがあって観ていて思わず笑ってしまうような仕掛けが随所にあります。敵の隣の屋敷を拠点にして、あーでもないこーでもないと作戦を練る展開も、三十郎らしい気楽さが滲んでいておかしみがありました。

 小林桂樹さんが演じる捕虜の侍が、敵の屋敷でごく普通に食事をしていたり、作戦の成功に一緒になって喜んでいたりする様子も、とても愛嬌があってよかったです。こういうキャラクターが一人いるだけで、全体の空気が和らぎ、作品そのものの温度がぐっと上がる気がします。

 もちろん、物語は笑いだけではなく、随所に緊迫したシーンもあり、特に終盤にかけての攻防は見応えがあります。敵側も様々な手段を使って若侍たちを騙そうとしてきて、心理戦のようなやりとりが続きます。

 そして最も印象に残ったのは、やはり三十郎と室戸半兵衛の一騎打ちの場面です。もう筆で書くのも惜しいほどの緊張感が張り詰めた中で、刀が一度ギラリと光るだけで勝負がついてしまうというあの有名な場面。まさに“間”と“気”だけで勝負を決する侍同士の戦いの美しさが、これほどまでに画として成り立っていることに感動しました。

 全体を通して、テンポよく進む95分の中に、人情と駆け引きと痛快さがぎっしり詰まっていて、本当に見応えある娯楽作品でした。観終わったあと、なんとも言えない充足感が残る映画だったと思います。

☆☆☆☆☆

鑑賞日:2013/07/21 DVD

監督黒澤明 
脚色菊島隆三 
小国英雄 
黒澤明 
原作山本周五郎 
出演三船敏郎 
加山雄三 
平田昭彦 
田中邦衛 
太刀川寛 
久保明 
波里達彦 
江原達怡 
松井鍵三 
土屋嘉男 
仲代達矢 
小林桂樹 
入江たか子 
団令子 
樋口年子 
清水将夫 
志村喬 
藤原釜足 
伊藤雄之助 
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