映画【ポルノスター】感想(ネタバレ):渋谷の喧騒に潜む孤独と暴力の記憶

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●こんなお話

 渋谷の街で「ヤクザいらんねん」と社会の常識とか一切通じないような主人公がひたすらナイフでバンバン人刺していく話。

●感想

 渋谷のスクランブル交差点を、千原ジュニア演じる青年がゆっくりとカメラに向かって歩いてくる。その瞬間からすでに不穏な気配が漂う。群衆の中でひとり異質な存在として浮かび上がる彼の表情には、怒りとも哀しみともつかない静かな狂気が宿っている。千原ジュニアの持つ特有のオーラが、都会の雑踏の中で異様な輝きを放っていました。

 物語は、ヤクザの子分としてどこか馴染みきれない若者たちとの出会いから始まる。彼らは本物になりきれないチーマーであり、軽いノリと無責任さの中で、やがてLSDを巡る抗争に巻き込まれていく。誰もが自分の立ち位置を見失いながら、それでも流されるように暴力の渦へと沈んでいく。

 映画の中で描かれるバイオレンスシーンは、痛みそのものを観客に突きつけてきました。長回しで描かれるナイフの刺突、胸を貫く鋭い刃、頭部への衝撃。冷静なカメラの視線が淡々と続くことで、逆に痛みが際立っています。血の色よりも、空気の冷たさが印象に残るものでした。

 主人公が何を考えているのか、どこへ向かおうとしているのかは最後まで掴みきれないもので。彼の中にある衝動や目的が語られることはなく、ただ行動だけが積み重ねられていく。その不透明さは物語を難解にしている一方で、どこか現代の若者たちの姿を映しているようにも思えます。

 彼を取り巻く若者たちは、軽薄で未熟ながらも現実の痛みに直面していく。ヤクザとの抗争やLSDの奪い合いといった要素が物語を動かすが、構成はやや荒く、感情の流れが置き去りにされているように感じた部分もありました。特に主人公を利用しようとするチーマーたちの動機や、抗争の展開にはもう少し深みが欲しかったです。

 また、無邪気に彼へ近づくヒロインの存在も印象的でした。彼女はスケートボードで一緒に街を滑り抜け、LSDの騒動に巻き込まれていく。だが、彼女が何を求めていたのか、その行動の背景が掴めず、感情移入しづらい部分もありました。表情や仕草の一つひとつにはリアルさがあるのに、心の奥が描かれないのが惜しかったです。

 それでも、坂道を歩く人々のカットや、耳を裂くようなギターの音、容赦のない暴力の連続には確かな映像的魅力がありました。街の雑踏の中に潜む静かな狂気、誰にも届かない叫び。監督の意図するものがすべて掴めたわけではありませんが、映像としての強さは確かに残りました。

 観終えて感じたのは、都会の中にある“孤独の形”でした。人々がすれ違う交差点で、誰もが何かを探している。その無数の視線の中で、主人公の青年だけが違う方向を見つめていたように思います。理解できないまま心に刺さる映画、という表現が一番近いかもしれません。暴力の中に漂う静寂が、観る者に長く余韻を残す作品でした。

☆☆☆

鑑賞日:2014/07/28 DVD

監督豊田利晃 
脚本豊田利晃
出演千原浩史 
鬼丸 
緒沢凛 
広田レオナ 
鈴康寛 
KEE 
KENTA 
奥田智彦 
上野清隆 
杉本哲太 
麿赤児 
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