●こんなお話
硫黄島の戦いの日本側から見た話。
●感想
2005年、現代の硫黄島で地下壕の発掘調査が行われ、地中から多数の日本兵の手紙が発見される。その手紙をきっかけに物語は過去へと遡り、舞台は1944年、太平洋戦争末期の硫黄島へと移る。
硫黄島守備隊には、家族を日本に残した元パン職人の一等兵・西郷をはじめ、多くの兵士たちが配属されていた。過酷な自然環境と物資不足の中、彼らは島の防衛準備を進めていたが、新たに着任した指揮官・栗林忠道中将は、それまでの常識を覆す戦術を打ち出す。アメリカ留学経験を持つ栗林は、敵の圧倒的な物量と補給能力を理解しており、海岸での迎撃や無謀な突撃を退け、島内部に張り巡らせた地下壕とトンネルによる持久戦を命じる。
この方針は旧来的な価値観を持つ将校たちの反発を招くが、栗林は兵士一人ひとりの命を少しでも長く守ろうとし、家族へ手紙を書く時間を与えるなど、人としての尊厳を失わせない指揮を貫く。
1945年2月、ついに米軍が硫黄島へ上陸する。日本軍は地下壕からの奇襲で応戦するが、激しい艦砲射撃と火炎放射器によって壕は破壊され、戦況は急速に悪化していく。洞窟内での集団自決や手榴弾による死、重傷兵の処置など、戦争の極限状態が容赦なく描かれていく。
馬術選手として知られる西竹一中佐は、敵である負傷米兵を助け、その兵が持つ母からの手紙に心を動かされるが、やがて戦死する。憲兵としての過去に苦しむ若い兵士・清水は、捕虜となるが米兵に処刑され、島に漂う空気は次第に重苦しさを増していく。島の防衛は完全に追い詰められ、栗林は最後の総攻撃を決断し、自らも前線へ赴く。重傷を負った栗林は自決。西郷は混乱の中で米軍に捕らえられ意識を失う。目を覚ました彼が夕焼けを見つめ、静かに見つめる。
再び現代へ戻り、発掘された手紙が読み上げられることで、名もなき兵士たちの声が時代を越えて響き、敵味方を超えた人間の尊厳と記憶の重みが静かに浮かび上がっておしまい。
栗林中将と一等兵・西郷を軸に、戦車隊の西竹一中佐や憲兵隊の兵士たちが、それぞれどのような思いで戦場に立つのかを、序盤で丁寧に描いている点が非常に印象的でした。従来の上陸阻止作戦を否定し、地下要塞による持久戦を選んだ栗林に対する反発や、部隊が一枚岩になりきれないまま戦争へ突入していく様子は、人間ドラマとして見応えがありました。
特に、元パン職人である西郷が、召集に戸惑いながら戦場に放り込まれていく姿は親しみやすく、観る側の視点として機能していたと思います。米軍上陸後は短い時間で戦況が急転していくため、日本軍が次々と倒れていく印象を受けますが、個々の戦闘よりも、追い詰められた状況下での人間関係や心理の変化に重きを置いている点が、この作品らしさだと感じました。
自決を選ぶ者、投降を考える者、その狭間で揺れる感情を西郷の目線で追体験できる構成は、戦争を遠い出来事ではなく、身近な人間の選択として捉えさせてくれます。色味を抑えた映像の中で、炎だけが鮮烈に浮かび上がる演出も印象的で、戦場の異様さと恐ろしさを強く伝えていました。
一方で、重厚な演技が並ぶ中で、一人だけ現代的な雰囲気を感じさせる人物が目立ってしまい、世界観から少し浮いて見えた点は惜しく思います。それでも全体としては、派手さではなく静かな説得力で戦争を描いた作品であり、観終えた後に多くのことを考えさせられる映画でした。
☆☆☆☆☆
鑑賞日:2012/01/23 Blu-ray 2019/08/16 NHK BSプレミアム 2025/12/20 U-NEXT
| 監督 | クリント・イーストウッド |
|---|---|
| 脚本 | アイリス・ヤマシタ |
| 共同原案 | ポール・ハギス |
| 原案 | 栗林忠道 |
| 出演 | 渡辺謙 |
|---|---|
| 二宮和也 | |
| 伊原剛志 | |
| 加瀬亮 | |
| 中村獅童 | |
| 裕木奈江 |


