映画【オクジャ】感想(ネタバレ):ブラックユーモアと感動が交錯するポン・ジュノ節炸裂の傑作

okjya
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●こんなお話

 食糧危機問題を解決するために開発されたスーパー豚を10年間かけて育てたブリーダーがいざ企業に豚を返すことになったら、やっぱりイヤだと豚を取り戻そうとする「ブタがいた教室」的な話。

●感想

 ポン・ジュノ監督らしいオフビートで独特なユーモアが作品全体に散りばめられた、非常に個性的な映画でした。序盤では、韓国の山間部で自然と共に暮らす少女ミジャと、巨大なスーパー豚・オクジャとの穏やかであたたかい日常が描かれます。その牧歌的な生活が、10年という契約期間の終了によって突如打ち切られ、オクジャがアメリカの企業に連れ去られてしまうことで、物語は動き出します。

 ミジャがオクジャを救い出そうと奔走する物語は、単なる冒険譚ではなく、動物愛護、消費社会、企業倫理といった重たいテーマを内包していますが、そうしたテーマに対するアプローチがポン・ジュノ監督らしく風刺とユーモアに満ちており、観ていて重くなりすぎない絶妙なバランスが保たれています。

 特に印象的だったのは、動物愛護団体とのやりとりで、通訳がまったく機能せず、意思疎通がちぐはぐになるシーン。真剣な内容にもかかわらず、噛み合わない会話にクスリと笑ってしまう絶妙なテンポと間が光ります。動物保護団体の描写も、どこか滑稽で風刺的に描かれており、その「真面目なのにどこかズレている」感じが非常にユニークでした。

 一方で、企業側もまた非常に風変わりな人物ばかりで構成されており、少女・ミジャ以外の大人たちは全員、良くも悪くもどこか「普通ではない」キャラクターとして描かれています。こうした誇張された人物描写が、物語全体にユーモラスなトーンを与えており、コメディ映画として非常に楽しめるポイントとなっていました。

 クライマックスでは、屠殺場での緊迫した展開が描かれますが、その解決策が冒頭に登場した「あるアイテム」によってもたらされます。このアイテムにそれほどの力があるとは思わなかったため、個人的にはその効力や意味をもう少し早い段階から伏線として提示してくれていれば、より納得感があったように感じました。

 また、オクジャだけが救出され、他のスーパー豚たちはどうなるのか、という根本的な問いが作品内で明確に解決されないまま物語が終わる点も印象的です。これはこれで「現実はそんなに単純に変わらない」という現実主義的なメッセージなのかもしれませんが、もう一歩踏み込んだ視点や提案があると、より深みが増したのではないかとも思います。

 加えて、ストーリー展開における障害の描き方がやや甘く、韓国の企業施設に忍び込んだり、屠殺場に潜入したりといったシーンにあまり緊張感がなく、アクションアドベンチャーとしての盛り上がりにやや欠ける部分も否めませんでした。さらに、オクジャのCGについても、滑らかではあるもののリアルさに欠け、世界観への没入を少し妨げてしまっていた点はやや残念でした。

 とはいえ、作品全体のテンポは非常に良く、悪人らしい悪人が存在しないという構成も観ていて心地よく、エンタメ作品としては120分間しっかりと楽しめる内容となっています。ユーモアと社会風刺が巧みに融合した、ポン・ジュノ監督らしい世界観を体験できる、独特な魅力にあふれた映画でした。

☆☆☆☆

観賞日:2017/06/30 Netfilx

監督ポン・ジュノ 
脚本ポン・ジュノ 
ジョン・ロンソン 

出演ティルダ・スウィントン 
ポール・ダノ 
アン・ソヒョン 
スティーヴン・ユァン 
ジェイク・ギレンホール 

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