映画【ヌードの夜】感想(ネタバレ):石井隆が描く幻想とバイオレンスの夜

Nûdo no yoru
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●こんなお話

 ヒロインが恋人のヤクザを殺してその死体を押し付けられた代行屋が、そのヒロインに惚れちゃってトラブルを解決する話。

●感想

 物語は、ギラギラとした欲望が渦巻く男たちの世界を背景に進んでいく。そんな中で余貴美子が演じる女性の、静かに耐え続けるような佇まいが美しく、暴力や支配にさらされながらも揺るがない強さを漂わせている。男たちは汗にまみれ、酒と煙草と欲にまかせて生きており、竹中直人の演じるキャラクターもその一人だった。彼が殴られ続けて顔が腫れ上がっていく姿や、夢の中で拳銃が頭にめり込んでいく奇妙な映像など、特殊メイクや演出の迫力も見どころのひとつになっています。

 暴力的な存在として現れるのが根津甚八演じる男。彼のDVぶりには目を背けたくなるような恐ろしさがあり、同時にその姿が物語の中で強烈な存在感を放っていました。そしてもう一人、彼を「兄い」と呼びながら探し回る椎名桔平の不穏なキャラクターも印象的だった。虚ろな目つきと異様なテンションで画面に登場するたびに、不安が静かに膨らんでいくような感覚を覚えました。

 やがて、ヒロインを助け出そうと主人公が拳銃を手にして椎名桔平の元へ乗り込んでいく展開に移る。緊張感が張り詰める中、長回しで描かれるその対峙シーンは見応えがあり、特に拳銃の発砲で指を吹き飛ばす瞬間などは、音と映像の衝撃が直に伝わってきました。静と動の対比が巧みに織り込まれており、暴力の持つ破壊力がスクリーンからにじみ出るようでした。

 死体をドライアイスとともにスーツケースに詰めて運ぶシーンは、どこか滑稽さもありながらも不気味で、ホラーとコメディが交錯する奇妙な感触を残す。さらに、ヒロインが海へ車で突っ込む大胆な場面や、その後の展開には驚かされます。幻想と現実のあわいを行き来するような演出が続き、まさかの幽霊との濡れ場にまで発展する。しかもその場面で竹中直人が「三半規管が強いんです」と真顔で言い放つという台詞があり、笑っていいのか戸惑うほどの奇妙さがありました。こうした独特のセリフ回しも、この作品らしさとして記憶に残ります。

 全体を通じて、石井隆監督ならではの世界観が画面に凝縮されていて、ナイトシーンに降る雨、そこに映るネオンの光、湿った空気に混じるバイオレンスとエロス。斜めのフォントに象徴されるように、どこか昭和のハードボイルドを引きずりながらも、幻想的で現代的な要素が溶け合っていました。映像美と演出の個性が強く、物語の筋道よりも、そこに漂う空気感や感情の残滓を味わうような作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2021/01/18 U-NEXT

監督石井隆 
脚本石井隆 
出演竹中直人 
余貴美子 
椎名桔平 
清水美子 
岩松了 
小林宏史 
田口トモロヲ 
小形雄二 
速水典子 
岡村洋一 
飯島大介 
蟷螂襲 
横田茂美 
筑紫野はな 
室田日出男 
根津甚八 
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