●こんなお話
港町が水質汚染で住民たちがパニックになるのを記録した話。
●感想
2009年、アメリカ東海岸にある小さな港町クラリッジでは、毎年恒例となっている独立記念日の祭りが行われていた。海産物が名物のこの町には観光客も多く、港には屋台が並び、地元の演奏が流れ、町長はクラリッジの豊かさを誇らしげに語っていた。海の恵みを前面に押し出す賑やかな一日になるはずだったが、その裏側ではすでに小さな異変が積み重なり始めていた。
湾内では二人の海洋学者が潜水調査を行い、水質が急激に悪化していることを記録していた。採取した水からは異常に高いレベルの汚染物質が検出されている。海中では寄生性等脚類イスオポッドがいるらしく、水質を調べる。
祭りの会場では、地元のアナウンサー、ドナが記録用の取材を続けていたが、群衆の中に体調不良を訴える者が出始める。皮膚には赤い発疹が広がり、水疱が破れ、嘔吐。症状はあっという間に重症化し、救急スペースには人々がなだれ込む。祭りの賑わいは恐怖と混乱に飲み込まれ、町の病院へ次々と搬送されていった。
病院では、医師たちが原因を探りながら治療に当たっていたが、やがて患者の体内でイスオポッドが急速に増殖し、臓器を食い荒らしていることが明らかになる。CDCへ緊急の報告がなされるが、感染の速度に対処が追いつかず、医療スタッフも次々と倒れていく。住民の皮膚や口から幼虫が噴き出し、街はまるごと異変に覆われていった。
事態の原因は、町外れにある巨大養鶏場が、ステロイド剤を含んだ鶏糞を違法に湾へ垂れ流していたことらしい。汚染物質が海の生態系を破壊し、通常は小型のイスオポッドが異常な大きさへ変異し、肉食化するまでに環境が変わってしまっていた。
町のあちこちで通信は途絶え、警察も保健所も機能を失い、クラリッジは外部からの封鎖状態に置かれた。記録映像には、パニックに陥った住民、逃げ惑う家族、処理しきれない遺体、そして政府が事態を隠そうとする動きが映されていく。
混乱の中でドナは町から脱出し、その後、安全な場所で事件を語り直すために、残された映像や録音を集め、証言をまとめようと試みる。町は壊滅し、湾内のイスオポッドは政府の手で駆除されたとされるが、どこまで本当かはわからないまま物語はおしまい。
ドキュメンタリー形式を採用した構成が興味深く、記者、医師、一般の住民が持つカメラが交互に視点をつないでいくのはとても面白かったです。複数の角度から同時進行するように事件が立ち上がるため、小さな町で何が起きているのかが徐々に明らかになっていく流れに緊張感がありました。
寄生虫が人間の体内を這っていく描写はかなり生々しく、皮膚の下を動くような感覚が伝わる表現がよくできていたと思います。映像としての気味悪さが強く、淡々と記録されているからこそ現実味が増していくところが印象的でした。
ただ、複数の視点が切り替わることで、中心となる人物がはっきりしない場面もあり、物語としての引きは弱く感じました。上映時間自体は短いのですが、波のように散らばる映像をつないでいく手法が続くため、少し間延びするような印象も受けました。
港町がまるごと壊滅していく恐怖は、もし自分がその場にいたらと考えると背筋が冷たくなるようで、環境汚染が引き起こす連鎖の怖さをリアルに突きつけられた作品だったと思います。淡々と積み上げられていく映像が、最後には大きな災厄の記録として迫ってくるところに、この形式ならではの力があったと感じました。
☆☆☆
鑑賞日:2025/12/06 DVD
| 監督 | バリー・レヴィンソン |
|---|---|
| 脚本 | マイケル・ウォラック |
| 原案 | バリー・レヴィンソン |
| 出演 | クリストファー・デナム |
|---|---|
| スティーヴン・クンケン | |
| フランク・ディール | |
| クリステン・コノリー | |
| ケッテル・ドナヒュー | |
| ウィル・ロジャース |

