映画【宮本武蔵】感想(ネタバレ):戦乱の世に芽生える、新たな旅のはじまり

Miyamoto Musashi
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●こんなお話

 村の暴れん坊が夢と情熱で一旗揚げてやろうと頑張るけど、なかなか上手くいかない話。 

●感想

 関ヶ原の戦を背景に、激動の時代を生きたひとりの若者の旅立ちを描く作品。主人公は乱暴者として村人たちに手を焼かれる存在だったが、ある日突然の出来事をきっかけに大きな渦に巻き込まれていく。物語の序盤では、彼の生まれ故郷である山深い村が描かれ、その中でも村の象徴として聳える一本の大木の姿が印象的に画面に収められていました。

 戦乱の世に翻弄される中、彼はとある高僧の導きによって山中の寺に匿われることとなる。そこでの生活が物語のひとつの転機となっていく。最初は荒れた心のまま手に負えなかった主人公だったが、日々の中で次第に変化が訪れ始める。和尚との交流は断片的で、直接何かを教えるというよりも、時間の経過と静かな対話を通じて少しずつ考えを深めていくという描かれ方だった。彼がどうして心を入れ替えるに至ったのか、その変化の細部については描写が多くはないが、物語としては内面の動きよりも大きな流れの一部として進行していく構成になっています。

 物語の背景には関ヶ原の戦があり、その大規模な戦闘や兵士たちの動き、そして民衆のざわめきなどが広がるスケール感ある映像で描かれていく。合戦の場面ではモブの数も多く、画面に収まる一つ一つの動きに迫力があり、群像としての映像の強さが目を引く。馬の走る土煙、遠景の軍勢、旗がはためく中での構図など、戦場を構成する要素ひとつひとつがしっかりと活かされていた。

 主人公が旅立つまでの物語は、まだ物語全体の始まりに過ぎず、ここからどのような道を歩んでいくのかは描かれていない。彼が何者として生きていくのか、またこの大きな時代のうねりの中でどんな役割を果たしていくのか、その予感を残したまま物語は終わる。あくまで今回は序章という印象のつくりになっていて、ここから続く物語の展開に期待が膨らむ構成になっていた。

 映像面については、制作年を考えると驚くほど鮮やかで、特に自然の風景や合戦の広がりをとらえたカメラワークに見応えがありました。色彩や構図の工夫が随所に見られて、スクリーンを通じて時代の空気を味わうことができたように思います。

 一方で、物語の展開は非常にテンポが速く、主人公の心の変化をもう少し丁寧に見たかったという印象もありました。和尚とのやりとりも、言葉そのものの意味がわかりにくく、人物の内面にどれほどの影響を与えたのかをもう少し掘り下げて描いてくれたら、さらに深く感情移入できたかもしれません。

 それでも、物語の舞台を整え、主人公の出発点を見せるという点ではしっかりとしたつくりで、これから先の展開に向けて期待を持てる作品だったと感じました。序章で終わる映画として、次の物語を待ちたい気持ちにさせてくれる一作でした。

☆☆☆

観賞日: 2018/12/01 DVD

監督稲垣浩 
脚本若尾徳平 
稲垣浩 
出演三船敏郎 
三國連太郎 
尾上九朗右衛門 
水戸光子 
岡田茉莉子 
八千草薫 

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