●こんなお話
在日韓国人ファミリーヒストリーとか芸能界で頑張る話。
●感想
難病の治療費を必要としていた兄妹。兄は金策のために犯罪の世界に身を投じ、妹は芸能界で生き残ることを選ぶ。物語はその兄妹の現在を軸に進みながら、彼らの父が戦時中に強制連行され、厳しい状況を生き抜いていく過去の姿が重ねて描かれていく。
兄は過酷な状況のなかでも逃げ続け、自分の置かれた環境に抗うように動いていくが、明確な目的が語られることは少ない。妹は、在日としてのアイデンティティに揺れながらも芸能の仕事に懸命に取り組む姿が印象的で、彼女が周囲の偏見とどう向き合っているのかが丁寧に描かれていた。芸能界の舞台裏、視線の冷たさ、差別のニュアンスがじんわりと滲んでいて、彼女の立ち位置に対して共感を覚える瞬間もありました。
途中から物語に関わってくる佐藤という人物は、兄妹との関係がはっきり語られないまま進んでいくが、それでも彼の登場が兄の行動を変えていく一因となっていく。チャンス君という病気の子どもが登場し、兄妹が行動を起こすきっかけとなるのだが、その子の治療については物語の終盤になるほど触れられなくなる。観る側としては、彼の行く末が気になるところだった。
終盤、妹が出演する戦争映画の試写会のシーンでは、スクリーンに映る爆撃の再現映像とともに、妹のモノローグ、自らの出自を語る姿、そして父親たちが実際に体験した歴史が交錯する。映画内で三つの視点が重なる構成は、映像的な迫力はありつつも、観客がどこに感情を預けるべきか定まりにくく、個々の場面の強さが全体の印象に繋がりにくいという印象もありました。
作中では、「何で芸能界で在日って隠すの?」「朝鮮人なんかに生まれたくなかった」といったセリフが登場する。どれも非常にインパクトのある言葉で、社会に投げかける問いかけとして受け取ることもできる。しかし、その問いかけに対する答えがどこか曖昧で、語られた言葉が宙に浮いたままに見える部分もあったり。
とはいえ、作品全体から感じられるのは「生きる」という行為への真摯なまなざしだったように思います。とりわけ父親たちの生き抜く姿に込められた力強さ、そしてそれを現在へと引き継ぐ兄妹の迷いと選択は、重いテーマの中にも静かな希望を残してくれていたように感じました。
爆撃のシーンは印象的で、映像としての力をしっかりと感じました。それによって、作品に独特の陰影が生まれていたことも確かです。テーマも構成も多層的で、観る人によって受け取り方が変わっていくような作品だったと感じました。
☆☆
鑑賞日:2012/07/08 Hulu
監督 | 井筒和幸 |
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脚本 | 羽原大介 |
井筒和幸 |
出演 | 井坂俊哉 |
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西島秀俊 | |
中村ゆり | |
藤井隆 | |
風間杜夫 | |
キムラ緑子 | |
手塚理美 | |
キム・ウンス | |
今井悠貴 | |
米倉斉加年 | |
馬渕晴子 | |
村田雄浩 | |
ラサール石井 | |
杉本哲太 | |
麿赤兒 |