●こんなお話
前作から3年後、何とか治安を保っていた刑事だったけど。刑務所から出所したヤクザが暴れ始めて、主人公がズタボロになっていく話。
●感想
新人刑事だった男が、再び戻ってきた今作では、表の顔を持ちながら裏ではヤクザと丁々発止の駆け引きを繰り広げるようになっている。捜査のために、恋人の弟という立場を巧みに利用して情報を引き出すなど、立ち位置は複雑でありながらも巧妙。そんな中、かつて会長を殺された組に属していた男が刑務所から出所し、再び物語の渦中に戻ってくる。時代が変わり、仲間たちが金儲けに精を出す姿に嫌気をさした彼が選ぶ行動は、極めて原始的で過激。そこにピアノ教師の殺害事件が重なることで、物語は予期せぬ方向へとねじれていく。
バイオレンス描写は一線を画していて、もはやサイコスリラーのような残酷さすら漂わせるシーンが多く、見応えというよりも息苦しさすら感じさせてくれました。前作からくすぶり続けるヤクザ同士の対立。その火種が、今回は鈴木亮平さんの演じる男によって再び燃え上がっていきますが、肝心の親分衆には闘う気概がなく、行き場のない怒りは身内に向かってしまうという不穏な展開。過去の名作たち、たとえば『仁義の墓場』や『広島死闘編』などで描かれた“身内を殺すこと”に対する制裁が、今作ではほとんど無視されている点も興味深いです。時代が変わったと言えばそれまでですが、制裁なき世界に生きる者たちの暴走が止まらない。
一方で、主人公の刑事は痛みを超越しているのか、刺されても撃たれても殴られても、何度でも起き上がってくる。その姿はもはや無敵のスーパーヒーローであり、後半になると緊迫感よりも笑いをこらえるのが難しいシーンもちらほら。警察に軟禁されたと思えば、職務そっちのけで野球中継に夢中な警官の隙を突いて拳銃を奪い脱出するあたりから、物語の“リアリティ”は急カーブを切っていく印象でした。
ヤクザたちの殴り込みの場面では、トラックで事務所に突っ込んでいく大胆さ、次々と現れる敵味方の入り乱れる乱闘劇、飛び交う銃声といった、どこか往年の黒澤映画『用心棒』を彷彿とさせる騒乱ぶりに、個人的には惹かれるものがありました。そして突如現れる姐さんが、止めに入る間もなく撃たれる展開もまた衝撃的で、暴力が日常に溶け込んだこの世界の厳しさが垣間見えます。
その後、パトカーを盗んで颯爽と現れる主人公と、鈴木亮平さんとの間で繰り広げられる一騎打ちは、もはやジャンルの垣根を越えたアクション映画のよう。銃撃戦あり、カーチェイスありの豪快なシーンには、邦画としては珍しいスケール感があるものの、ややリアリティを欠く点も否めず。実録ものを期待していた側としては戸惑いもありました。
作品全体としては140分という尺が長く感じられたのも事実です。序盤の背景説明に時間を割きすぎている印象があり、物語が動き出すまでがやや退屈でした。ようやく動き始めたと思ったら、また停滞。その間に起きる残酷な描写の数々は、見る側にとっても精神的な負荷となってのしかかります。加えて、チンピラの弟による潜入捜査もあまり緊張感が持続せず、そこにも物足りなさを感じました。
そして、主人公の結末。『県警対組織暴力』のような異動で締めくくられるのかと予想していたのですが、あまりにもあっさりと物語が終息してしまい、残されたのは主人公の体に刻まれた無数の傷と、観客側の「彼は本当に無事なのか?」という不安だけでした。せっかくここまでの激動を描いたのなら、もう少し余韻を残す終わり方が欲しかったところです。
☆☆
鑑賞日:2021/08/20 TOHOシネマズ川崎
監督 | 白石和彌 |
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脚本 | 池上純哉 |
原作 | 柚月裕子 |
出演 | 松坂桃李 |
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鈴木亮平 | |
村上虹郎 | |
西野七瀬 | |
中村梅雀 | |
早乙女太一 | |
斎藤工 | |
吉田鋼太郎 | |
音尾琢真 | |
渋川清彦 | |
毎熊克哉 | |
筧美和子 | |
青柳翔 | |
滝藤賢一 | |
矢島健一 | |
三宅弘城 | |
宮崎美子 | |
寺島進 | |
宇梶剛士 | |
かたせ梨乃 | |
中村獅童 |