●こんなお話
土佐の親分とその女性たちの生涯の話。
●感想
物語のタイトルにある「鬼龍院花子」は、実はあまり登場せず、中心となるのは彼女の父親である鬼政こと仲代達矢さんと、その養女・松恵を演じる夏目雅子さんのふたり。映画はこのふたりの関係を軸に、激動の昭和を駆け抜ける人々の生き様を描いていきます。
仲代達矢さんが演じる鬼政は、一本筋の通った侠客で、情に厚くて激情型。そのテンションの高い演技は圧巻で、登場しただけで場がぐっと引き締まります。そしてその鬼政の隣に座る岩下志麻さんの存在感がまたすごく、何を考えているのかわからない静かな怖さを漂わせていて、思わず背筋が伸びるような迫力を感じました。
そして、本作の真の主役ともいえる存在が、夏目雅子さん演じる松恵です。元芸者の娘として鬼政に拾われた彼女は、勉学に励み教師となり、自立した道を歩もうとします。けれども、周囲の偏見や男社会の理不尽に晒され続け、それでも負けない強さを持った女性として描かれていきます。その強さが象徴的に表れるのが、有名な啖呵「鬼政の娘じゃ、なめたら……なめたらいかんぜよ!」の場面。言葉に込められた凛とした怒りと誇りに満ちた迫力がスクリーンを突き抜けて、観ていて本当に心が震えました。理不尽な仕打ちを受けながらも、父を尊敬し、娘としての誇りを貫く姿が胸に迫ります。
また、彼女の人生に影響を与える人物として登場するのが、学生運動のリーダー。彼は侠客の世界に真正面から立ち向かう信念を持った人物として描かれ、最初は松恵との間に激しいやりとりがあるのですが、いつの間にか時代が進み、再登場したときにはすでに夫婦となっていたという展開に少し驚かされました。その過程をもう少し丁寧に描いてくれたら、二人の絆の重みがより伝わったように思います。
物語は昭和初期から戦後まで、10年以上にわたる長い年月を描いているため、エピソードごとのつながりがやや断片的に感じられる部分もあります。けれどもその分、登場人物の心の変化や生き様の蓄積が描かれており、時間の経過とともに染み込んでくる感情があります。
終盤、ボロボロになった家で、年老いた鬼政と松恵が再び向き合う場面では、それまでの年月と複雑な感情が静かに交差し、ひとつの答えにたどり着いたかのような温かさが残りました。暴力と怒号が飛び交う前半とは対照的に、後半にかけてじんわりと心にしみてくる構成になっていて、観終わったあとには静かな余韻が残る作品だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2011/02/12 DVD
監督 | 五社英雄 |
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脚本 | 高田宏治 |
原作 | 宮尾登美子 |
出演 | 仲代達矢 |
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岩下志麻 | |
夏目雅子 | |
仙道敦子 | |
佳那晃子 | |
高杉かほり | |
中村晃子 | |
新藤恵美 | |
室田日出男 | |
夏木勲 |