映画【KAMIKAZE TAXI】感想(ネタバレ):ペルー移民とヤクザの逃避行

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●こんなお話

 悪徳政治家の隠し金を盗んでヤクザに追われる若者と日系ペルー人タクシー運転手の逃避行とリベンジの話。

●感想

 南米インカの音楽が流れ、どこか乾いた風が吹き抜けるような始まり。おそらく低予算の作品だが、ガンアクションのセンスが素晴らしく、火薬の匂いまで伝わってくるようでした。主人公の若いヤクザ、日系ペルー人のタクシードライバー、そして若者の恋人やその友人の女性たち――それぞれが生々しく存在していて、長い上映時間でも飽きることなく引き込まれる作品でした。

 物語は、ヤクザの若者が政治家に女性を紹介する仕事を引き受けるところから始まる。だが、紹介した女性が政治家の暴力によって傷つけられ、抗議に立った若者の恋人が殺されてしまう。怒りと絶望の中、若者は政治家の隠し金を奪うが、あっという間に裏社会に知られて命を狙われることになる。逃走の果てに、偶然出会った日系ペルー人のタクシードライバーと行動を共にし、二人は伊豆を目指して走り出す。

 ヤクザに追われ続けながらも、どこか達観したような若者の姿が印象的。命の危険が常に隣にあるのに、静かに煙草を吸う横顔に、諦めではなく妙な清々しさがあります。そして彼を乗せるタクシードライバーは、外国人労働者として日本社会で生き抜く厳しさを背負いながら、それでも誠実にハンドルを握り続けている。ペルーでの過酷な日々、日本に来てからの差別や孤独――その断片が語られるたび、彼の生き方がより深く響いてきます。

 悪徳政治家が過去を塗り替えようとする一方で、ヤクザと外国人労働者の現実が交差する。片言の日本語で話すタクシードライバーを見下していたヤクザたちが、彼の強さを思い知るシーンには胸が熱くなりました。パチンコ玉を手に取り、それを武器に振り回して敵を倒していく姿には、抑えきれないカタルシスがあった。孤独な戦いの末、政治家の屋敷にひとりで踏み込んでいくクライマックスは圧巻で、思わず息をのみました。

 敵役のミッキー・カーチスと矢島健一の存在感も際立っていました。常に飄々としていて、死の気配が漂っても平然と煙草をくゆらせる。その落ち着きが不気味でありながら、どこかユーモラスでもある。そして最後、役所広司とミッキー・カーチスが「わけわからないまま死にたくないから、全部話してくれ」と語り合うラストシーン。二人の静かなやりとりが、物語全体を包み込むように終わる。まるで、観客の中に何かを残して立ち去るような余韻がありました。

 2時間20分という長尺の中には、やや間延びした部分もありました。特に、田口トモロヲ演じる温泉旅館のチャップリン風のくだりなどは、独特の味わいがあるものの、少し長く感じました。しかし、タクシードライバーがペルーの幼少時代を静かに語る場面などには深い意味が込められていて、作品全体のテーマである「喪失と再生」を支える大切なピースとなっています。

 全編に流れる虚無感、そしてどこか乾いた優しさ。それがこの映画を特別なものにしていました。終盤の風景の美しさと、そこに漂う一抹の寂しさは、まさにこの映画の心臓部のように感じました。豪華さではなく、静かな熱量で観客を掴む、そんな力を持った作品でした。

☆☆☆☆

鑑賞日:2014/04/11 DVD 2020/10/28 DVD

監督原田眞人 
脚本原田眞人 
出演役所広司 
高橋和也 
片岡礼子 
ミッキー・カーチス 
矢島健一 
中上ちか 
内藤武敏 
田口トモロヲ 
根岸季衣 
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