●こんなお話
1930年代のイタリアで息子を亡くしたお父さんが気の人形を作ったら命が吹き込まれて歩き回って命の大切さを学んでいく話。
●感想
物語は、小さなコオロギ・クリケットの静かなモノローグから始まる。舞台は戦時下のイタリア。木工職人のゼペットは、教会でキリスト像の制作に没頭していた。仕上げの段階に差し掛かったある日、爆撃機が頭上を通過し、投下された爆弾が教会を直撃。そこには彼の最愛の息子がいた。突然の悲劇に、ゼペットは生きる意味を失い、日々墓前で酒に溺れるようになる。
その墓の傍らには、一本の木が育っていた。そこに住み着こうとしていたのが、語り手であるクリケットだった。ところが、ある夜、ゼペットはその木を伐り倒し、木の人形を彫り始める。息子を失った悲しみを埋めるように、一心に彫刻刀を動かすゼペット。酔いつぶれて眠りに落ちたその夜、青白い光をまとった妖精が現れ、人形に命を与える。
翌朝、物音に気づいて屋根裏へ向かったゼペットの前に現れたのは、生きて動く木の人形。驚き、戸惑いながらも「ピノッキオ」と名づけ、彼を受け入れる。まだこの世界の何も知らないピノッキオは、見るもの聞くものすべてに驚き、無邪気に世界を知ろうとする。だが、村人たちはその姿に恐れを抱き、軍人である市長は「学校へ通わせろ」と命じる。
ゼペットは亡き息子の教科書を手渡し、ピノッキオを学校へ向かわせる。しかし、途中で出会ったサーカス団長の誘惑により、彼は興行の世界へ足を踏み入れてしまう。舞台上で歌い踊るピノッキオは一躍人気者となるが、その裏でゼペットは息子を探して旅に出る。
一方で、サーカスの興行の裏には戦争の影が忍び寄っていた。軍人たちは人形の不死性に興味を示し、彼を「兵器」として利用しようとする。ピノッキオは市長の息子と出会い、戦争の恐怖や人間の弱さを知っていく。だが、やがてサーカスの団長の裏切りによって炎に包まれ、共に過ごした猿の助けで海へ落ちる。
深海で巨大な魚に飲み込まれたピノッキオは、その腹の中でゼペットと再会する。ふたりはピノッキオの鼻を伸ばして魚の胃から脱出。追いかけてきた魚を機雷で撃退するが、ゼペットは力尽きて海に沈みかける。ピノッキオは命を賭して彼を救い、再び木の人形の姿に戻ってしまう。悲しみに暮れるゼペットの前に妖精が現れ、ピノッキオにもう一度命を与える。
その後、時は流れ、ゼペットもクリケットも、共に旅した仲間の猿もこの世を去る。ピノッキオはただ一人、静かに歩き出す。命を与えられた者として、生きることの意味を探すように。
ストップモーションの温かみある質感が、木の手触りや光の陰影を繊細に描き出していて素晴らしかったです。ピノッキオの動きには生命が宿っていて、ぎこちなさの中に確かな息づかいを感じました。ゼペットの孤独や父性、そして戦争という重い時代背景が、物語に深みを与えていたと思います。
また、音楽の使い方が印象的で、ミュージカルのように歌を通してキャラクターの心情が伝わってくる構成も魅力的でした。ギレルモ・デル・トロ監督らしいダークファンタジーの中に、人間の愚かさと優しさが同居していて、静かに胸に響きました。
アニメーションとしては少し長めの尺でしたが、その時間を通してピノッキオとゼペットの心の距離がゆっくりと近づいていくのを感じられたことが、この映画の大きな魅力だと思います。命の重さ、親子の愛、そして生きるということを優しく問いかけてくれる、深い余韻のある作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2022/11/26 キネカ大森
監督 | ギレルモ・デル・トロ |
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マーク・グスタフソン | |
脚本 | ギレルモ・デル・トロ |
ホリー・クライン | |
脚色 | ギレルモ・デル・トロ |
マシュー・ロビンス | |
原作 | カルロ・コッローディ |
出演(声) | ユアン・マクレガー |
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クリストフ・ヴァルツ | |
グレゴリー・マン | |
デヴィッド・ブラッドリー | |
ティルダ・スウィントン | |
ケイト・ブランシェット | |
フィン・ヴォルフハルト | |
ジョン・タートゥーロ | |
ロン・パールマン | |
ティム・ブレイク・ネルソン | |
バーン・ゴーマン |