●こんなお話
元パンクロッカーでシングルマザーのお母さんと中学生の娘さん、そしてお母さんと同じロックバンドの恋人の3人の家族に娘の親友との関係の話。
●感想
海外ツアーという名目で旅に出ていた父が久しぶりに帰ってきて、家の中が再び騒がしくなる。母は母で、娘に向かって「スカートもっと短くした方がカッコいいよ」とあっけらかんとした顔で言ってしまうような、どこかいわゆる世間からズレた感覚の持ち主で、父もまた、公園で初対面の人とすぐに打ち解けてしまうほどのフットワークの軽さを持っている。そんな家族に囲まれて暮らす娘は、目立つことが嫌いで、「普通の家庭」に憧れを抱いている。
両親のように、自由で規格外な振る舞いに対して居心地の悪さを覚え、時に怒り、時に無視しながら、彼女は自分なりの「普通」を追い求めていく。しかし観ている側としては、その「普通」というものがいかに不確かで、見る角度によって全く違う輪郭を持つものなのかを感じるつくりになっていました。
物語は娘の一人語りで進んでいく。最初は戸惑いや不満ばかりを口にしていた彼女が、周囲の出来事や人との出会いによって、少しずつ自分の立ち位置を変えていく過程が丁寧に描かれていました。親友の転校や、担任との三者面談といった学校生活のなかの出来事が、彼女にとっての転機になり、またそれらの変化が、思春期という時期の柔らかさと不安定さを感じさせてくれました。
そしてクライマックス。音楽の演奏シーンでは、これまで軽々しく振る舞ってきた父親が、言葉よりも音で自分の想いを表現する。大泉洋さんが見せるその姿がとてもよくて、それまでの印象がガラリと変わってしまうような説得力があり。だらしなさの中に、実は誠実さが潜んでいたことが、あの瞬間にすっと伝わってくるのが心地よかったです。
映画のほとんどが家庭や教室などの室内で進んでいくのですが、カメラワークに工夫があり、画面に動きを持たせることで、退屈さを感じさせない仕上がりになっていたのも印象的でした。
とはいえ、序盤から陽気にふるまう父親の姿に、どうしても感情移入しきれなかったところもありました。言ってしまえば、働かずに家族に頼って生きている姿が、あまりにも呑気に見えてしまい、若干ひっかかる部分もあったのですが、それでも最後にはその印象を払拭するような存在感を見せてくれたのが印象的で、やはりキャラクターの描き方としては成功していたのではと感じます。
笑ったり、いらだったり、少しほろりとしたり。親と子、それぞれの立場で見ても、どこかしらに引っかかる部分がある作品だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2013/06/05 DVD
監督 | 山本透 |
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脚本 | 山本透 |
鈴木謙一 | |
原作 | 吉川トリコ |
出演 | 麻生久美子 |
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大泉洋 | |
三吉彩花 | |
能年玲奈 |