映画【キック・オーバー】感想(ネタバレ):メキシコ刑務所を舞台に繰り広げられる個性派ギャグ満載のアクションドラマ

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●こんなお話

 無法者たちの刑務所で頑張るメル・ギブソンの話。

●感想

 何とも掴みどころのないギャグが次々と繰り出され、笑うべきか戸惑うべきか、観客の感情を揺さぶる作品でした。物語の舞台はメキシコの刑務所ですが、その様子はまるで一つの小さな町のようで、漫画的な誇張が効いています。お金さえあれば何でもできてしまうこの空間では、囚人たちが自由に商売をしたり、好き勝手に歩き回ったりするので、刑務所というよりも日常の延長線上にある不思議な場所として描かれているのが印象的です。実際にモデルとなったメキシコの刑務所の実態を反映しているそうで、その独特な世界観には思わず目を見張るものがあります。

 そんな刑務所で、主人公はニコチン中毒の10歳の少年と意外な友情を育みます。少年のニコチン依存症ぶりはコミカルに描かれており、その姿には思わず微笑ましくなります。ただし、彼がギャングのボスに肝臓移植をするために生かされているという重い背景があることが徐々に明かされていきます。この設定もかなりぶっ飛んでいて、物語に独特の緊張感と同時に奇妙なユーモアを添えています。主人公はその状況を活かし、ギャングや警官たちの間で巧みに立ち回りながら大金を奪おうと奮闘する姿が描かれます。 

 ただ、主人公の過去や背景についてはほとんど語られず、なぜ彼がそこにいるのか、なぜ少年にここまで気を遣うのかは明確ではありません。頭の回転が速く、どんなピンチにも動じず銃器の扱いにも熟達しているところから、相応の訓練を受けていることは想像できますが、その詳細が掘り下げられることはありません。少年のために動いているようにも、また彼の母親に恋をしているようにも見えず、そのため行動の動機が曖昧なまま物語が進むのが少々もどかしく感じられました。

 上映時間はおよそ96分とコンパクトですが、冒頭の展開にやや間延び感があり、人物紹介が続く部分では少し集中力が途切れかける瞬間もありました。ただし、それも本作の独特な雰囲気や世界観に浸るための仕掛けと捉えれば、新たな映画体験として味わえるかもしれません。そして何より、この映画を鑑賞する最大の楽しみは、動かなくなったアクションスター、メル・ギブソンの姿を観ることにあるのかもしれません。

☆☆

鑑賞日:2012/10/14 TOHOシネマズ南大沢

監督エイドリアン・グランバーグ 
脚本ステイシー・パースキー 
メル・ギブソン 
出演メル・ギブソン 
ダニエル・ヒメネス・カチョ 
ケビン・ヘルナンデス 
ドロレス・エレディア 
ピーター・ストーメア 
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