映画【Fukushima 50】感想(ネタバレ):緊迫の120分、福島第一原発事故を描く現場の記録

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●こんなお話

 東日本大震災で福島第一原発で働く職員さんなど決死の作業の話。

●感想

 物語は1秒の猶予もなく、緊急事態の只中から始まります。観客が息を整える間もなく、2011年3月11日、東日本大震災による福島第一原子力発電所の危機が描かれていきます。通常であれば、冒頭で日常の風景や家族の会話などが挿入され、そこから災害が訪れるという構成が多い中、本作では迷いなく本題に突入し、原発の現場で起きていた事態をありのままに提示していくことで、強い緊張感を持ってみることができました。その緊迫した状態が120分間にわたって続くため、観終えた後には、心身にどっと重みが残る体験となります。

 作中では、原発の構造や事故発生のプロセス、どのような対処が求められたのかといった要素が丁寧に描かれており、テロップや原発の地図などを活用して、何が起きているのかを視覚的にも明示してくれます。それによって、観客が作業員たちの行動を理解しやすく、「今、何をしようとしているのか」が常に伝わる設計になっています。あそこのバルブを開ける、水を注入する、電源を確保する…次々と立ちはだかる障害に、現場の人々がどう立ち向かっていったのかが重層的に描かれており、緊迫のドラマであると同時に記録映画のような側面も感じられます。 

 出演者たちの演技もまた、物語に真実味をもたらしていました。実力派の俳優陣が揃い、現場で命懸けの作業にあたる作業員や、混乱の中で判断を迫られる東電職員、あるいは政治家たちを、それぞれの立場でリアルに体現しています。言葉のひとつひとつ、動きのひとつひとつに緊張と責任が込められており、画面に集中せずにはいられません。

 その中で、佐野史郎さん演じる総理大臣は、登場してから常に声を張り上げている姿が印象的でした。怒鳴ることによって存在感を出す人物として描かれており、映画的なキャラクターではありましたが、やや誇張された演出にも感じられました。原作には、東電との連携の難しさや、情報が上がってこない不信感が記されていたとのことですが、そうした政治と現場とのすれ違いももう少し丁寧に描かれていれば、より深みが増したように思います。

 物語の終盤、事故は最終的に「なんとか大事に至らなかった」という形で終息に向かいますが、それは綿密に計画された対策によるものというより、様々な偶然や幸運が重なった結果として描かれます。主人公たちが命懸けで奮闘する姿が描かれる一方で、観客の中に湧き上がる感情の行き先が曖昧なまま、おしまい。

 また、物語の中に挿入される回想シーンがいくつかあり、そこに込められた意図についてはやや不思議に感じました。主人公の少年時代の「お父さん、お正月に帰ってね」というやり取りは感情を補強する意図があるのかもしれませんが、物語の流れの中で唐突に感じられます。さらに、アメリカ軍の司令官らしき人物が日本の少年とラジコン飛行機を飛ばすシーンが回想として現れる場面もあり、それがどう本編とつながっているのかは不明瞭なままでした。

 海外キャストの登場シーンになると、演出全体のトーンが少し変わってしまうこともあり、場面の質感にギャップが生まれていたように思います。それでも、全体としては緊張と責任感に満ちた現場の空気を、俳優たちと演出の力で再現しており、あの日、原発で何が起きていたのかを理解する上で大きな価値のある作品です。

 終盤に映し出されるテロップは、映画が制作された時点では希望を込めた言葉だったのかもしれませんが、時を経て新型コロナウイルスの感染拡大を経験した今では、また異なる意味を感じさせるものでした。そして最後、桜の花を見上げるシーンで静かに終わりを迎える演出には、ある種のやすらぎが込められていたのかもしれません。けれども、このテーマ自体が現在進行形である以上、その静けさに完全に身を委ねきれないもどかしさも残りました。

 華やかなCGや爆発的な演出に頼らず、実際に起きた出来事を、できるだけ事実に近い形で描こうとした姿勢が伝わってくる作品でした。原発事故とは何か、現場で何が起きていたのか、それを知る入り口として非常に誠実な一本だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2020/06/09 川崎チネチッタ 2021/03/11 WOWOW

監督若松節朗 
脚本前川洋一 
原作門田隆将
出演佐藤浩市 
渡辺謙 
吉岡秀隆 
安田成美 
緒形直人 
火野正平 
平田満 
萩原聖人 
吉岡里帆 
斎藤工 
富田靖子 
佐野史郎 
堀部圭亮 
田口トモロヲ 
段田安則 
篠井英介 
矢島健一 
小倉久寛 
和田正人 
石井正則 
三浦誠己 
堀井新太 
金井勇太 
増田修一朗 
須田邦裕 
皆川猿時 
前川泰之 
ダニエル・カール 
小野了 
金山一彦 
天野義久 
金田明夫 
小市慢太郎 
伊藤正之 
阿南健治 
中村ゆり 
ダンカン 
泉谷しげる 
津嘉山正種 
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