●こんなお話
危うく飛行機事故を免れた機長さんがアル中に悩んだりする話。
●感想
飛行機事故をメインとした話かと思いきや、何のことはないアル中の男が立ち直る話でした。そしてアルコール依存症がいかに恐ろしいものか、そしてウソをついて生きる虚しさも描いていて、130分と長くほとんどが会話シーンですが。これがなかなか面白く、むしろもうちょい長く時間をかけて描いてもよかったと思える内容でした。
冒頭、いきなり同僚と寝た朝から始まり。元妻と息子について口論する電話をしている。アルコールでグダグダなのに、サングラスをして颯爽と出勤する。しかも乗客と一緒に飛行機に乗り込むという。つまり遅刻してます。そして飛行中なのにお酒を飲んでる最低野郎です。
そして墜落シーン。ここがもう少し迫力あるのかと思いきや、意外にこじんまりしていてガッカリでした。この映画で唯一の映画的なスペクタクルなので、もっと恐怖を出してほしかったです。同じ監督さんの【キャストアウェイ】の墜落シーンを超えてほしかったです。ここで教会に激突しますが、この教会に激突した意味みたいなのは宗教に詳しくないのでわからなかったです。なんとか派の人たちが救出活動してたのも何かしらの意味があるのでしょう。
ここから、主人公がアルコールを飲んで働いていたのか? というのを聴聞会までに何とか逃げようとする男が描かれていきます。ここからがこの映画の見せどころで、会話の端々にすべて意味があるものでそれが有機的にクライマックスの聴聞会までに絡んでいくのがさすがの内容でした。
この主人公、見ていくと今までの人生、すべて嘘で塗り固められていて擁護する友人たちにも迷惑をかけていきます。アルコール依存症の会でスピーチする人が「ここにウソをつく人物はいないウソつきはこの場にはいない」と話すと、それにあわすかのように立ち去る主人公。
がん患者がタバコを美味しそうに吸って話すことにより、「死」という存在を意識させ、主人公に変化を与える。
主人公といい感じになるヒロインに対しても酒がやめられないことで暴言を吐き見放される。更には元妻や息子からも見放されていきます。
あまりの行動に友人にも見放されますが、主人公は「今度こそは酒を断つ」と審議会までホテルに隔離されますが。ここでも誘惑に……。
気付けにドラッグを使ってしまうのが凄いですが。冒頭の出勤風景と同じサングラスで颯爽と向かう主人公。そこで子どもに見つめられますが。子どもという存在もキーとして使われていて、大人のウソを見抜く存在として登場します。そのため、実の息子にも嫌われている。
副機長は事故で一生歩けなくなり、神を信じる副機長に主人公は馬鹿にした態度をとります。入院中の副機長を訪ねる主人公。ここで副機長は奇跡の操縦で救ってくれた主人公にではなく神様に感謝します。
神様を信じる副機長とかたくなに神を信じない主人公の対比も面白かったです。
ヒロインは薬物依存ですが、冒頭、売人に電話しますが「お願いでないで」と出てほしくない。薬物はやめたいのにやめられない。
ヒロインは薬物をやめたいという存在に対して、主人公は酒を自ら望んでいる。ここも対比で描いていて、そして激突してしまう主人公。
そして聴聞会のクライマックス。アルコールはとってない、しばらく飲んでないとウソをつきつづける主人公。そして、話は飛行機から見つかったお酒のビンの話になり、亡くなった乗務員がその「お酒を飲んでいたと思いますか?」という質問。
ここで主人公は「神よ、力よ」とつぶやきます。あれほど神を信じていなかったのに神に頼む主人公。それほどの勇気を持って発言する最後。ここで主人公は泣きながら、子どもをかばって亡くなった同僚に対してとる行動。ここは泣きそうになりました。主人公が変化した瞬間。デンゼル・ワシントンさんのお芝居。
そして「オレははじめて自由になった」と話している主人公。酒によってたくさんの大切なものを失ってしまう。けれどエピローグで主人公と仲間たちは関係が修復していったというのが写真でわかります。
最後、身体は刑務所にいて不自由だけど心は初めて自由になった主人公は今までと表情が違います。そして息子と話してるときに、後ろで流れる飛行機の音。そこでタイトル「フライト」がどーん。男が、飛び立ったという希望のエンディング。素晴らしかったです。
130分、静かに1人の男のドラマを紡いだ映画で素晴らしかったです。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2013/03/03 TOHOシネマズ南大沢
監督 | ロバート・ゼメキス |
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脚本 | ジョン・ゲイティンズ |
出演 | デンゼル・ワシントン |
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