●こんなお話
1983年のイタリアの避暑地で最高の両親のもとで人生経験を積む少年の話。
●感想
イタリアの陽光がまぶしい避暑地を舞台に、ひと夏の出会いと別れが丁寧に描かれる本作。ジャンルとしては同性愛をモチーフにした恋愛映画という位置づけながら、物語の中心にあるのはむしろ少年の成長と、自分の感情との向き合い方だったように感じられました。
主人公の少年は、大学教授である父と母とともに、古く美しい別荘のような家で夏を過ごします。訪れるのは父の教え子である大学生。最初は距離を感じながらも、次第にお互いを意識し合い、穏やかに惹かれていきます。しかしその関係は、いかなる障害もなく、誰かに咎められることもありません。マイノリティとしての生きづらさや社会からの反発の描写はなく、葛藤のないまま、静かに恋が進行していきます。
この点について、恋愛映画として見た場合はやや盛り上がりに欠ける部分もありましたが、だからこそ、物語は恋の過程そのものよりも、その出会いを通して主人公がどのように変化していくのかに重きが置かれているように感じました。特に印象的だったのは、主人公を取り巻く生活環境の豊かさです。召使が常に身の回りの世話をしてくれて、食事も散歩もすべてが優雅に流れる時間。日向ぼっこ、プール、音楽、読書と、憧れのような夏の時間が画面いっぱいに広がっていきます。
大学教授という職業があれほどの経済的余裕をもたらすのかと驚きながらも、その生活に対する羨望は決して嫌味に感じることなく、ただひたすらに「こんな世界があるのか」と思わされるような魅力に包まれていました。主人公の少年は、英語、イタリア語、フランス語を自在に操り、ピアノもギターもこなします。親もまた多言語を操り、知的な会話を軽やかに交わす様子には、圧倒されつつもどこか微笑ましさがありました。
両親の存在もまた特筆すべき点です。とりわけラスト10分、父が息子に語るシーンは、まるで映画全体を静かに包み込むような温かさがありました。親としてどう子どもの心の痛みに寄り添うか。自分自身が同じ立場になったとき、果たしてあのような言葉をかけられるのかと、自分に重ねて考えさせられる場面でもありました。そして思わず「こんな両親がいたら、永遠に親離れできないかもしれない」と、少し可笑しく、少し切なく思ってしまうのです。
上映時間は約130分。時に少し間延びして感じる場面もありましたが、それを補って余りある映像美と音楽の力が、この映画の魅力をしっかりと支えています。イタリアの風景と共に流れる音楽が、物語に穏やかで深い余韻をもたらしていました。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2018/05/10 TOHOシネマズ川崎
監督 | ルカ・グァダニーノ |
---|---|
脚本 | ジェームズ・アイヴォリー |
原作 | アンドレ・アシマン |
出演 | ティモシー・シャラメ |
---|---|
アーミー・ハマー | |
マイケル・スタールバーグ | |
アミラ・カサール | |
エステール・ガレル |
コメント