●こんなお話
小説通りの殺人事件が起こって、容疑者の美人さんにひたすら翻弄される主人公の話。
●感想
何よりも印象的だったのは、ヒロインのキャサリンを演じるシャロン・ストーンさんをはじめとする、登場する女性たちの“支配力”です。彼女たちは皆、魅力的でセクシーで、その美しさや知性を武器に、男たちを翻弄し、掌の上で転がしていきます。
とくにキャサリンは、自信と余裕に満ちた佇まいで、視線ひとつ、言葉ひとつが場の空気を支配していきます。彼女に関わった男性たちは、誰ひとり例外なく、彼女のペースに引き込まれ、思考停止に陥っていく。その様は滑稽であり、同時にどこか爽快でもあります。
本作では、全編を通して音楽が絶え間なく流れ続け、映像と相まって非常にドラマチックな演出がされています。ミステリーやスリラーという枠に収まらず、むしろ一種のオペラのような劇的な高揚感を感じました。
音楽が観客の感情を引っ張り、視覚と聴覚の両面で「心地よい違和感」を演出してくるあたり、ヴァーホーヴェン監督らしい強烈なスタイルが光ります。
物語は一応、殺人事件を追う刑事(マイケル・ダグラス)による“捜査劇”という体裁を取っていますが、実際にはその捜査はまったく機能していません。彼は捜査のたびにキャサリンと会話し、誘導され、圧倒され、次第に彼女に呑まれていくばかり。
女に言い負かされ、見透かされ、追いつめられ、ついには暴力という手段に出る主人公。けれどもその暴力ですら彼女には通じず、より深く絡め取られていく。そんな様子を見ていると、だんだんと主人公が哀れに思えてきます。
いわばこの映画は、“女尊男卑”の逆転劇。男性優位の社会に慣れきった視点をひっくり返し、「女性に支配されることの不安定さと美しさ」を突きつけてくる作品でもありました。
個人的には、この映画の120分はまるで一瞬のように過ぎ去ってしまい、もう少し長く、じっくりと主人公の“破滅の旅路”を見せてほしいとすら感じました。ひとつひとつの会話、眼差し、駆け引きが濃密で、息もつかせぬほど。
この作品は、事件の真相以上に、男女のパワーバランスが揺らいでいく過程を観る映画でした。その意味で、“推理劇”ではなく、“力関係の劇場”とでも言うべき作品でした。
☆☆☆☆
観賞日: 2018/11/11 Netflix
監督 | ポール・バーホーベン |
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脚本 | ジョー・エスターハス |
出演 | マイケル・ダグラス |
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シャロン・ストーン | |
ジョージ・ズンザ | |
ジーン・トリプルホーン |
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