●こんなお話
土方歳三を通しての新選組から函館戦争までの話。
●感想
多摩の百姓として生まれた少年が、喧嘩っ早くて女にもてる若者時代を経て、薬屋で働いていた頃から物語は始まる。清河八郎のもとで浪士組が結成されるが、その清河と考えが合わず袂を分かつ。やがて芹沢鴨らと行動を共にし、新選組として京の治安維持に乗り出していく。そこから内紛が起き、池田屋事件を経て組織が拡大するが、伊東甲子太郎一派の加入によって再び分裂の火種が生まれる。鳥羽伏見の戦いの後、土方歳三らは北へ転戦し、時代の流れに抗いながら散っていく。
物語は土方の語りで進み、新選組の各メンバーが見せ場をもらっていて、それぞれの人物の存在感が際立っていました。特に密偵の山崎丞が池田屋の錠を外し、刀を回収するくだりはスリルがあり、緊張感のある展開だったと思います。池田屋事件までを一つのミッションのように描く構成がうまく、歴史的事件の背景を知らなくてもサスペンスとして楽しめる。クラシック音楽に乗せた殺陣という意外な演出も新鮮で、画面のリズムが独特の雰囲気を生んでいました。
浪士組の結成から清河八郎の裏切り、芹沢鴨の暴走、そして「適切に処置せよ」と命じられての暗殺。雨の夜に繰り広げられるその場面の緊迫感がありました。北辰一刀流の伊東甲子太郎が加入し、藤堂平助やサンナンさんとの関係が揺らいでいく過程も印象的だった。サンナンさんは終始土方と衝突し、悲しい結末を迎えますが、その対立が物語の軸になっていたように感じます。一方で、ライバルの七里研之助が函館戦争で「病院は襲わない」と言い切るシーンには男気があり、キャラクターの魅力が際立っていました。
多くの新選組映画が池田屋事件で終わる中、本作は函館戦争まで丁寧に描いているのが新鮮でした。散り際の土方歳三が、髷を落として馬にまたがり、拳銃を構える姿は胸が熱かったです。幕末の志士たちがどんな時代の流れに飲まれていったのか、その最期まで描こうとする意志を感じました。
一方で、アクションシーンは人が入り乱れていて、誰が誰なのかわかりにくい場面も。クラシックが流れる中での群衆の殺陣は独創的でしたが、映像的な迫力はやや薄い印象を受けました。時代背景の説明も登場人物の台詞で処理される部分が多く、やや説明的に感じられるところもありました。女性たちが時代の流れを一気に語るような構成には少し笑ってしまう瞬間も。
また、伊東一派の加入から離脱までがあっという間で、時間の流れが急ぎ足に感じる部分もあり。試衛館の面々が酒席で踊る場面など、トーンが急に軽くなる演出には少し戸惑いました。徳川慶喜の描かれ方も、追い詰められて弱気になる様子が強調されていて、もう少し深みが欲しかったところ。
それでも、新選組という集団が内紛を繰り返しながら自滅していく姿には、どうしようもない虚しさが漂っていました。信念や忠義といった言葉が何のためにあるのか、その問いを突きつけられるような物語でした。
2時間半という長尺ながらテンポがよく、お雪との恋を軸にした人間ドラマとしても見応えがあり。幕末という激動の時代に生きた男たちの生と死を、スピード感と哀愁のバランスで描いた一本だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2021/10/15 キネカ大森 2023/09/03 Amazonプライム・ビデオ
監督 | 原田眞人 |
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脚本 | 原田眞人 |
原作 | 司馬遼太郎 |
出演 | 岡田准一 |
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柴咲コウ | |
鈴木亮平 | |
山田涼介 | |
伊藤英明 | |
尾上右近 | |
山田裕貴 | |
たかお鷹 | |
坂東巳之助 | |
安井順平 | |
谷田歩 | |
金田哲 | |
松下洸平 | |
村本大輔 | |
吉田健悟 | |
村上虹郎 | |
阿部純子 | |
ジョナス・ブロケ | |
大場泰正 | |
坂井真紀 | |
山路和弘 | |
酒向芳 | |
松角洋平 | |
石田佳央 | |
淵上泰史 | |
渋川清彦 | |
マギー | |
三浦誠己 | |
吉原光夫 | |
森本慎太郎 | |
髙嶋政宏 | |
柄本明 | |
市村正親 |