●こんなお話
日本統治下の京城で日本軍の偉い人と売国奴を暗殺するために送り込まれた刺客と日本に協力する韓国人と殺し屋の戦いの話。
●感想
銃声が鳴り響き、爆音の余韻が夜の闇に吸い込まれていくなかで、怒涛のように流れていく140分間。独立軍、日本軍、そして名もなき殺し屋。交差するそれぞれの思惑が織りなす物語には、韓国映画ならではの熱量が確かにありました。
登場する人物たちは、銃を構え、走り、叫び、そしてときに黙って闇に消えていく。それぞれが何かを背負っていて、それぞれが譲れないものを持っている。その熱が、スクリーンからこちらにまで届いてくるようで、途中で気持ちが途切れることなく、最後まで一気に観ることができた気がします。
物語は、朝鮮人を虐殺した日本軍の高官と、それに手を貸す協力者たちを暗殺しようとする独立軍の計画から始まります。その作戦のために、スナイパー、爆弾職人、そして“速射砲”というあだ名を持つ男の三人が呼び寄せられ、ひとりひとりにスポットが当たっていく。
けれどその隊長自身が、実は日本軍とつながっているという裏の顔を持ち、最初から仲間を裏切るために殺し屋まで雇っていた、という物語の構造が明らかになる頃には、視点がぐるぐると動いているような感覚もありました。物語の仕掛けが多層的であるのは面白いものの、ひとつひとつの感情の動線がやや曖昧で、キャラクターへの理解が深まる前に物語が進んでしまうところもありました。
暗殺計画のなかで登場する独立軍のほかの隊員たちは、名前も顔も定かでないまま物語の背景に退いていき、ケイパーものとしての緊張感や連帯の高まりといった部分に、あと一歩手が届かないままクライマックスへと向かっていきます。
また、生き別れの双子という設定も登場し、劇中でようやくふたりが再会する瞬間が訪れるのですが、そこで涙があふれるような感動の時間が流れるわけでもなく、むしろその直後に、隠れ家の住所をメガネ屋の紙袋に書いてしまうという行動が描かれたりして、物語が持っていた密度が少しふわりと浮かんでしまうような感覚がありました。
同じ顔をしているからというだけで射殺を選んでしまう父親の行動も、それがどういった感情や背景から来るものなのか掘り下げられることなく、観ている側としては目の前の展開についていくのが精一杯になります。そして、残されたもう一人の双子がそのふりをして結婚式へと乗り込んでいくという終盤の展開には、スリルとともに少しばかり不思議な笑みがこぼれてしまいました。
ハ・ジョンウさん演じる殺し屋は、海軍陸戦隊の格好をして登場し、たまたま出会った軍人と言葉を交わしたあとには、なぜか結婚式の警備を任されているという急展開を迎えます。そういった関係の移り変わりが唐突で、何がどうつながっているのか、物語の呼吸をつかむのが難しい瞬間もありました。
そして銃撃戦では、何発撃たれても立ち上がる主人公たちの姿が描かれ、弾丸よりも信念が強いのだという表現に、どこか懐かしさを覚えたりもしました。とくに“速射砲”の男は、一度は殺されそうになって姿を消しながら、最後にはふらりと現れて、再び銃を手にして華麗に戦う。彼の生命力には驚かされながら、その姿に少し笑ってしまうような気持ちも残りました。
それでも、最後にハ・ジョンウさんが二挺拳銃を構えて銃撃戦に飛び込んでいく姿は、やはりどこか様になるものでした。混沌とした物語のなかに、一本筋を通すように現れたその瞬間に、スクリーンの中のすべてが凝縮されたような力強さを感じました。
複雑に編まれた人間関係と、熱を込めたアクション。そして、愛と裏切りが錯綜するなかで浮かび上がってくる登場人物の姿を思いかえす1作でした。
☆☆☆
鑑賞日: 2016/07/29 シネマート新宿
監督 | チェ・ドンフン |
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脚本 | チェ・ドンフン |
イ・ギチョル |
出演 | チョン・ジヒョン |
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イ・ジョンジェ | |
ハ・ジョンウ | |
オ・ダルス |
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