映画【明日の食卓】感想(ネタバレ):家庭の静けさに潜む痛みと希望を見つめる3人の物語

ashitnao
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●こんなお話

 3人の母親が子育てに仕事に家庭に悩んで限界を迎える話。

●感想

 冒頭、どこからか聞こえてくる怒声と物音。誰かが誰かを責めていて、けれど姿は見えないまま、静かに画面が切り替わっていく。舞台は静岡の郊外。住宅街の一角に建てられた一軒家に暮らす家族が描かれていく。母親は夫の出勤を送り迎えし、息子も成績はまずまずといった様子。隣には義母が暮らしていて、日常の中に少しだけ緊張が走っているようにも感じられる空気が漂う。

 別の町では、兄弟の喧嘩が日常のように続く家庭が描かれていく。こちらの主人公は、ブログを運営していて、それなりに読者もついているらしい。書いた文章をいつか書籍にしたいという夢を持ち、現在はライターを目指しながら暮らしている。夫はカメラマンとして働いているが、どうも最近、浮気の影がちらついているような描写が続く。

 また別の土地、大阪では、シングルマザーがコンビニと清掃のアルバイトを掛け持ちしながら息子を育てている。忙しさに追われる日々の中で、ふとした瞬間に見せる表情や口調に、母としての思いや苦しさが滲んでいた。

 それぞれにまったく違う日常を送っているように見える3人の女性たちが、それぞれの生活の中で少しずつ、問題と向き合い始めていく。息子がもしかしたら学校でクラスメイトに暴力をふるっていたのではないかという疑惑が浮かび、その先で「この子はもしかして普通ではないのかもしれない」と、親として抱える不安が大きくなっていく。夫が仕事を失ってからというもの、家にいても何もしようとせず、家事も育児も押しつけられたまま、彼女自身は少しずつ追い詰められていく。

 ようやく立ち上げようとしていた仕事のチャンスも、集中する余裕のないままうまくかみ合わずに終わってしまうなど、小さな焦りと苛立ちが積み重なっていく描写が続いていく。また、ようやく返済し終えたと思った矢先に、家族の中で預金通帳のトラブルが起こり、前を向こうとしていた気持ちがまた足元をすくわれるような感覚に襲われる。

 こうした展開が交互に描かれ、それぞれの物語が大きなクライマックスへと進んでいく中で、登場人物たちが何を選び、どこに行きつくのかを見届ける構成となっていました。

 全体を通して、女優陣の演技が非常に力強く、感情を言葉ではなく表情や佇まいで伝えてくる場面が多くありました。セリフに頼らずに空気を動かしていくような芝居が重なっていて、特に静かな場面ほど、その存在感が際立っていたように思います。

 内容としては、息が詰まるような重苦しさを持っていて、観る側にある程度の集中力や心の余白が求められる作品だと感じました。テーマやトーンの面で好みが分かれるかもしれませんが、家庭というごく身近な場所が舞台になっているだけに、どこかで自分の生活と重ねながら観てしまうような力もあったように思います。

☆☆

鑑賞日:2023/06/12 NETFLIX

監督瀬々敬久 
脚本小川智子 
原作椰月美智子
出演菅野美穂 
高畑充希 
尾野真千子 
外川燎 
柴崎楓雅 
阿久津慶人 
和田聰宏 
大東駿介 
山口紗弥加 
山田真歩 
水崎綾女 
藤原季節 
真行寺君枝 
渡辺真起子 
菅田俊 
烏丸せつこ 
宇野祥平 
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